米国で最大の発行部数(211万部)を誇る日刊紙『ウォールストリート・ジャーナル』(WSJ) は、米外交文書などの暴露で一躍ニューメディアの寵児になったウィキリークスの二番煎じとでもいえる内部告発サイトを立ち上げた。
ウィキリークスは秘密情報を自身のサイトでそのままの形で公開することを原則にしているが、SafeHouseと名づけられたWSJ版告発サイトは、新聞の編集局が受け皿になっている。新聞記者やデスクが同サイトに寄せられたタレコミ情報を手がかりにして取材を展開し、悪徳行為があれば、その全容を解明して新聞やウェブサイトで大スクープとして発表しようとするものだ。2011年5月5日、同社が発表した。
告発情報は、「政治、政府、銀行業、金融界、取引・融資、企業、労働界、法律、安全保障、外交」と新聞が守備範囲とするテーマならば何でもオーケーだ。
SafeHouseは独立したサーバーを使い、告発者からのメッセージは自動的に暗号化されるので匿名性が確保されるとWSJ紙は強調するが、2つの問題点がすでに指摘されている。
匿名保護システムに懸念
ひとつは匿名を保護するシステムである。匿名化ツールTORの開発者のひとりであるジェイコブ・アップルバウムは、SafeHouseの匿名保護システムは「素人ぽい間違いだらけ」だとツイッターで酷評した。同氏は過去にボランティアとしてウィキーリークスに参加した経歴を持つだけに、その評価を額面通りに受け取るわけにはいかないかもしれないが、その批判に耳を傾ける必要はあるだろう。
もうひとつは、告発者がWSJ紙と秘密性保護の取り決めに署名していない場合、新聞サイドは個人情報を合法的な範囲において警察などから求められれば、提供すると明言していることだ。要するにWSJ紙としては秘密情報のリーク(流出)には相当な覚悟が必要で、無責任な密告とは違うということを強調したいのだろう。
密告者がSafeHouseを使う際に、オンラインの気軽さでチクって、あとで大火傷を負う可能性があることを肝に銘ずるべきだろう。
(在米ジャーナリスト石川幸憲)