東京電力の原発事故を受け、夏場の節電対策のため就業時間を早める事実上の「サマータイム」を採用する企業が増えそうだ。パナソニック、ソニー、シャープなど大手電機メーカーのほか、日産自動車、三菱ふそうトラック・バスなど自動車メーカーも導入を決めるか、導入する方向で検討を進めている。
このほか、東京証券取引所は2011年7~9月、従業員の就業時間を1時間早めることを決定。飲料大手メーカーの伊藤園も6月1日から就業時間を1時間早めることを決めており、今夏は幅広い業種でサマータイムの壮大な実験が行われることになりそうだ。
電光掲示板「アローズ」消灯が議論呼ぶ
パナソニックとシャープは関西に本社や拠点工場があるため、本来ならサマータイム導入の必要はなさそうだが、東電管内にも工場や事業所があるため、全社的に就業時間をずらし、昼間の電力利用を抑える具体策の検討を始めた。パナソニックは完全子会社となった三洋電機とパナソニック電工を含め、国内の従業員約10万人が対象になるだけに、始業時間を1時間前倒しするだけでも節電効果が期待できそうだ。
ソニーは社員が始業と終業時間を柔軟に設定できるフレックスタイムを採用していることから、勤務時間を朝型にシフトすることで節電に結びつける。7~9月は土曜日や日曜日を稼働日とし、平日を休日とすることで平日の電力消費を削減する方針という。パナソニック、ソニー、シャープとも、一斉休業となる夏休みを増やすことも検討している。
東京証券取引所の7~9月のサマータイムは、あくまで従業員の就業時間を1時間早めるだけで、株式の取引時間(午前9時の前場スタート、午後3時の後場終了)は現状と変わらない。従業員については、取引市場やシステム関連の部署を除き、就業時間を1時間早める。
問題は東証内で株価を表示する電光掲示板「アローズ」だが、こちらも節電のため7月から消灯する。東証アローズはテレビの株価ニュースなどに登場し、証券マンの場立ちがなくなった現在は東証の唯一ともいえるシンボルだが、11年夏は節電を避けられなくなった。しかし、証券業界には「東証アローズの消灯は投資家のマインドに影響する」との声もあり、議論を呼びそうだ。
一斉導入は節電効果に限界がある
サマータイムをめぐっては、東京都の石原慎太郎知事ら東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県の知事が連名で政府に導入を求める緊急要望書を首相官邸に提出した。東電の原発事故で打撃を受けた首都圏の電力の安定供給を図るのが目的だ。要望書は「計画停電や不測の大規模停電を回避するには、効果的な対策が必要」と指摘し、サマータイム導入など9項目の対策を求めている。石原知事は「サマータイムなどできることはすぐやればよい」と訴えた。
しかし、日本全体が1時間時刻を早めるなどするサマータイムの導入は、実は節電効果のうえで限界があるという。枝野幸男官房長官は、国民が一斉に1時間を早めただけでは「(電力需要の)ピークがずれるだけにとどまる可能性がある」と指摘。「サマータイムは個別の企業や業種で影響の少ないやり方を判断いただく方が現実的で効果的だ」との認識を示している。確かに国民が一斉にサマータイムを導入したら、電力需要のピークも連動するため節電には結びつきにくい。現状では企業が分散して稼働時間をずらすなど、現在計画されているような企業の個別対応が最も効果的なのかもしれない。