菅直人首相が表明した浜岡原発(静岡県)の運転停止要請をめぐり、賛否の声があがっている。新聞社説では、首相判断に対する歓迎派から「やむなし」派、強い懸念を表明する意見まで評価が分かれた。
2011年5月7日付の新聞朝刊では、主要紙各紙が菅首相による浜岡原発停止要請を社説で取り上げた。
「妥当だ」「やむを得ない」
菅首相の判断について、「妥当だ」と評し、ほかの原発の停止についても言及したのは、朝日新聞と毎日新聞の社説だ。
朝日新聞は、「危険性がより具体的に指摘され、『最も危ない』とされている浜岡を動かし続けるのは、国際的にも説明が難しい」と指摘し、中部電力に対し「速やかに要請を受け入れるべきだ」と迫った。さらに、すべての原発を「いきなり止める」のは難しいとしつつ、「浜岡の停止を、『危ない原発』なら深慮をもって止めるという道への一歩にしたい」とも主張した。
毎日新聞も、中部電力による津波対策が終わる前に「東海地震に襲われる恐れは否定できない」として、「首相の決断を評価したい」との考えを表明した。また、「大地震のリスクを抱えているのは、浜岡原発だけではない」「現在想定確率が低い場所でも大地震が起きる恐れは否定できない」と指摘し、政府に対し「浜岡以外の原発についても、決して油断しないようにしてほしい」と注文をつけた。
また、読売新聞は首相判断については「やむを得ない」と理解を示しつつ、原発停止の広がりへは懸念を表明した。浜岡原発について「首都圏まで直線で180キロ・メートルの近距離」「日本の大動脈である東海道新幹線や東名高速道にも近い」として、やはり中部電力へ要請受け入れを促している。
しかし、「各地で原発停止が広がるかもしれない」ことについては、朝日や毎日とは異なり、「そうならないよう、政府と電力各社は、対応を急がねばならない」と訴えた。
「日本が原発を否定したと受け止められる恐れ」
一方、「津波対策の完成まで念のために止める考え方は理解できる」としながらも、「突然の発表は国民にかえって不安を募らせたのではないか」と懸念を示したのは日本経済新聞だ。
さらに丁寧な説明が必要だとして、「これでは、浜岡原発を緊急に止めなくてはならない理由があり、政府が隠している印象を国民に与えかねない」と強い不信感も表している。科学的な事実を基礎にした議論の必要性を訴えつつ、原発停止に伴う電力不足による産業界への「厳しい制約」についても言及している。
産経新聞の「主張」欄は、「『熟慮』があったとはみえない」「唐突な決断」と菅首相を批判した。浜岡原発と東海地震との関係について「立地上の特異性は以前から指摘されていた」「国と電力会社と住民は、これらを十分に理解したうえで、安全な運転について合意してきた」として、停止要請について、「あまりにも突然で、これまでの合意形成の経緯をも否定するものになりかねない」と懸念を示している。
また同欄では、「原発事故の深刻さをパフォーマンスに利用したような思いを禁じ得ない」とも書いた上で、諸外国から「日本が原発を否定したと受け止められる恐れがある」とも指摘している。
浜岡原発の地元では、川勝平太・静岡県知事が「英断に敬意」とコメントを発表する一方、同県御前崎市の石原茂雄市長は5月7日の会見で、「浜岡だけでなく、すべての原発を見直すべきだ」と不満をもらした。国の方針には従うとしつつも、「もう少し地元の意見をきいて反映してほしかった」とも話した。
インターネットの個人ブログや配信された関連ニュースのコメント欄を複数みると、電力不足への懸念や菅首相に対する「パフォーマンスだ」との批判もあるが、浜岡原発の停止要請について歓迎する声も相当数寄せられていた。