阪神にとって2011年5月3日の巨人戦(東京ドーム)は今シーズンを象徴する日になるかもしれない。3連続ホームランなど、ちょっとした記録ずくめだった。勝負の世界では、振り返ったときに、必ずキーポイントになっている出来事がある。
ライバル巨人の前で3つのグッドニュース
この日は憲法記念日。東京ドームは4万5000人を超える観客で埋まった。阪神は大観衆の前で派手な記録を次々とやってのけた。
第1は「兄貴」こと金本知憲の今季1号ホームラン。この一打は43歳1か月の年齢で放ったもので、セ・リーグ最年長ホームランとなった。これまでは現中日監督の落合博満が巨人時代にマークした42歳8か月。15年ぶりの更新だった。ちなみに日本プロ野球記録は45歳5か月(東映・岩本義行)。
続いて3連続ホームラン。鳥谷敬、新井貴浩、クレイグ・ブラゼルが右に左にかっ飛ばしたもので、プロ野球ならではの醍醐味たっぷりのシーンだった。年に1、2度あるかないかの出来事だ。阪神では2010年8月の広島戦に次ぐ通算9度目で、ホームランはチームが勢いに乗る最高の特効薬である。
第3は先発したサウスポー能見篤史の対巨人戦8連勝だ。これは梶岡忠義、小林繁に次ぐ球団史上3人目だった。前2人はともにタイトルホルダー。能見にもチャンス到来といえよう。
たった1度の日本一を思い出させる主軸の3連発
その3つの記録の中で最大注目は3連続アーチ。キーワードは「3、4、5番のクリーンアップトリオ」。1985年、やはり巨人戦でランディ・バース、掛布雅之、岡田彰布の主軸トリオが放っている。このときはそろって地元甲子園のバックスクリーンに叩き込むという豪快なもので、「伝説の3連発」と名高い。
なによりも、阪神はこの年、セ・リーグ優勝を果たし、日本シリーズにも勝った。そのときのリーグ優勝は、実に21年ぶり。さらに日本一は後にも先にもその1度だけという劇的なものだった。
「3連発はすごい。盛り上がる。(85年を)思い出したね」
阪神の真弓明信監督はさすがに声を弾ませた。85年当時は、1番打者で「切り込み隊長」の役割を果たし、優勝に大きく貢献した。監督としてゲンのいい、気分のいい試合だったはずである。
3連発を聞いた現オリックスの監督岡田は「3人目のホームランが大変なんだよ」。85年の5番打者は、2連続本塁打の後の大変なプレッシャーを知る者ならではのコメントをした。
「優勝への予感がする」「歴史は繰り返す」
阪神ファンは早くも盛り上がっている。3連発は「優勝へのノロシ」というわけである。かつてのニックネーム「ダイナマイト打線」の再現といわんばかりで、プロ野球にとっても大いに湧く豪打だった。
大震災のためプロ野球の開幕が伸びた。巨人の本拠地、東京ドームでの今季第1戦がくだんの阪神戦だった。
「われわれにとって(地元開幕の5月3日は)特別な日だった。勝負の世界はいろいろある。(3連発など)ああいうこともね」
巨人の原辰徳監督は冷静に振り返った。悔しくないはずがない。翌日の試合は終盤に追いついてサヨナラ勝ち。実力のほどを見せた。
2010年のセ・リーグは阪神2位、巨人3位。両チームはクライマックスシリーズ第1ステージで対戦し、巨人が2連勝して勝ち上がった。阪神は雪辱の意気に燃えている。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)