女子フィギュアスケート世界選手権で安藤美姫が優勝し、4年ぶりに世界女王の座を奪回した。それもキム・ヨナ(韓国)を逆転で下しての快挙だった。これで冬季ソチ五輪に向けての「日本の顔」にも返り咲いたことになる。
視聴率でもロイヤル・ウェディングに勝つ
「自分のスケートのスタイルを変えずにやってきた。それへの神様のご褒美かな」
2011年4月30日、安藤は試合後に、そう振り返った。五輪女子マラソンでメダルを獲得したとき「自分で自分を褒めてあげたい」と言った有森裕子の言葉を思い出させた。ここ3年ほど低迷していただけに感慨はひとしおだったようだ。
その演技はテレビ視聴率でも優れた数字を記録した。逆転優勝を決めたフリーの視聴率は、大手のリサーチによると関東29.3%、関西18.3%、そして地元名古屋では35.4%だった。関東では瞬間最高35.5%をマークした。
第1日のショートプログラムでは、キム・ヨナに次ぐ2位。やはりキム・ヨナの演技は際立っており、「さすが世界No.1」の声が高かった。そんな状況で迎えたフリー。見事、ひっくり返して、日本女子が目指した「打倒キム・ヨナ」を果たした。その意味で価値ある優勝だった。
この日は英国王室のロイヤル・ウェディングの中継もあった。同じくテレビ視聴率は関東23.5%、関西23.4%だったから、ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式をしのいだことになる。いかに日本ファンが安藤の頑張りを支持したかが分かる。
「イケメン」コーチが「精神面の支え」
ここ2、3年、日本の女子フィギュアスケートは、ずっと浅田真央が第1人者のように扱われてきた。安藤は確かに2007年から2009年まで勝つことから遠ざかっていた。それどころか若い村上佳菜子の台頭もあり、注目度は下がっていた。
「安藤時代は終わった、安藤はもう浅田に勝てないだろう-と見られていたことは事実です」
スケート担当記者はそう明かしている。それだけにここへきての強さは驚きである。彼女に何があったのか気になる。ひとつのヒントは外国人コーチの存在だ。
「彼女は安定した演技をすることができた。だから勝てた。また、彼女は(精神的に)強い選手だ」
優勝をこうたたえたニコライ・モロゾフがそのコーチ。五輪金メダリストの荒川静香から紹介されたといわれる人物だ。いわゆる「イケメン」で、ソフトな感じを与える。「安藤の恋人か」。そううわさされる男性でもある。
安藤は十代から注目された。二十代にさしかかったころに勝てなくなった。それを支えたのがニコライ・コーチだった。「技術面の指導」だけではなく「精神面の支え」でもあったのだろう。
大会中、東日本大震災の被災者に向け「元気を与えたい」と勝負に臨んだ。プロ野球で仙台を本拠とする星野仙一監督率いる楽天イーグルスは「野球の底力を見せよう」と激励したが、安藤も思いは同じで、さしずめ「女の底力」を示したといえる。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)