前立腺がんの画期的な治療法が生まれた。診療所で施せる簡便さが売り物で、埼玉県央病院(埼玉県桶川市)顧問の小柴健・北里大学名誉教授が開発した。2011年4月21日、名古屋市で開かれた日本泌尿器科学会で発表された。
「外科手術や放射線治療よりも、患者さんの負担が少なく、副作用も小さい。それでいて、治療効果は格段に高い」と小柴さんは強調している。
86%の患者からがん細胞消える
中心となるのは、がん細胞を高熱で焼く温熱療法。小柴さんはこの日の教育セミナーで、早期がん用、進行がん用の2つの治療法を発表した。
小柴さんが10年前から始めている早期がん用の「AMR療法」は薬物療法(A)、マイクロ波による温熱療法(M)、前立腺切除術(R)を組み合わせる。この3つ併用の典型的治療を受けて3年以上経過した患者さん126 人の血清PSA(前立腺特異抗原)は4から46、平均で9.6 だった。PSAは前立腺でつくられるたんぱく質で、4程度を大きく超えると、がんである確率が高くなる。
126人のうち3人が心臓病などで亡くなったが、前立腺がんを再発した人はゼロだった。尿失禁や尿道狭窄などの副作用が9人に出たが、ほとんどで回復した。
典型的治療法としては、まず、がんの進行を抑え前立腺の体積を縮小する目的で、月1回、計3回のホルモン剤注射。これとは別に、毎日のホルモン剤の飲み薬を3カ月間続ける(A)。次に、ドイツ製の高温度治療器を用いて尿道から高エネルギーのマイクロ波を照射し、前立腺を1時間、摂氏45度に熱する(M)。さらに3カ月後、尿道から管を入れ、先端に付けたメスで変性した前立腺を除去、がんの病理検査もする(R)。その後、半年間はホルモン剤療法を続ける(A)。
病理検査では、126人の内109 人 (86.5%) からは、がん細胞が消えていた。残る17人 (13.5%) の多くもがん細胞は「瀕死状態」で、増殖可能な状態だったのは7人だけだった。PSA値の上昇が見られたが、いずれもホルモン剤療法で低下、安定した。
外科手術しなくても好結果
これらの経験をもとに、最初のAと次のMだけで外科手術部分(R)を省いても治療成績はほとんど変わらない、と小柴さんは確信。近年、希望者には簡略な「AM療法」に変えている。1週間ほど入院するRがなくなると、すべて外来で治療できる。
小柴さんは、やや進行して周囲に転移も考えられる患者さんに対しては、約2年前から国産の高温度治療器を用いた「電磁波高温度療法」を試みている。電磁波を照射し、細胞自身に発熱させる仕組み。がん細胞の熱に対する抵抗力を弱める働きのある生薬飲み薬 (パルテノライド) を併用する。前立腺だけでなく、周辺臓器のがん組織も熱に弱くなり、摂氏43度で死滅する。これも外来で治療できる。
「この治療法が普及すれば、前立腺がんは、特別な病院へ行かないでも町の診療所で治るようになる」と、小柴さんは訴えている。
(医療ジャーナリスト・田辺功)