(ゆいっこ花巻支部;増子義久)
「夫の命日と息子の誕生日が一緒になるなんてねえ」―。大槌町安渡地区で理容店を営んでいた越田ケイさん(73)はこう言って天を仰いだ。あの日―3月11日、漁師の夫、義男さん(67)は浜でホタテ養殖の準備をしていた。地震の直後、急に潮が引いた。「津波がくる」と直感し、家に戻った。ケイさんと一緒にいったん家を出たが、「ジャンパー取ってくる」と言って戻ったまま、帰らぬ人になった。
遺体が発見されたのは3月18日。でも、命日は大震災があった「3月11日」に決めた。「長男の誕生日がその日なんです。父さんの生まれ変わりっていうか…。何かの因縁だと思って」とケイさん。長男の博義さん(44)が「それにしても不思議ですねえ」と相槌を打った。その話に今度はこっちがびっくりした。私自身もこの日が誕生日だったからだ。お互いが目を白黒させ、「こんな偶然ってあるんですかねえ」とがっちり握手をした。
博義さんは母親のケイさんに理容店を再建させたいと思っている。「これ、この頭もお袋に刈ってもらったんです。掘立小屋の床屋でも良い。みんなの頭をすっきりさせる。そんなささやかな営みから故郷の再建に貢献をしたい。お袋のこの願いを是非、叶えてあげたいんです」と博義さん。しかし、理容機器はすべて流されてしまった。「越田理容店の再建に是非、協力させていただきたい」と私は2人に約束した。
ケイさんの左腕の腕時計は今も正確な時を刻んでいる。義男さんの遺品だ。「海水に1週間以上も浸かっていたのにちゃんと動いています。スーパーで買った安物だったのにねえ。父さんが今も生きているみたいで…。まるで床屋を再建しろという遺言みたい」。ケイさんは仮設住宅の一角でハサミと櫛を手にすることができる日を今から心待ちしている。
(追記)
たった一人からでも始めることができる最低限の理容機器を譲っていただける方はご一報を。越田さんのささやかな願いを叶えてあげたいと思います。ご協力を心からお願い申し上げます。
ゆいっこは民間有志による復興支援組織です。被災住民を受け入れる内陸部の後方支援グル―プとして、救援物資やボランティアの受け入れ、身の回りのお世話、被災地との連絡調整、傾聴など精神面のケアなど行政を補完する役割を担っていきたいと考えています。
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