東日本大震災の復興財源を巡り、増税論が勢いを増している。菅直人首相の私的諮問機関「復興構想会議」の五百旗頭(いおきべ)真議長は、2011年4月14日の初会合で「全国民的な支援と負担が不可欠」と増税の必要性を打ち出し、菅首相や閣僚、民主党執行部が増税路線、なかでも消費税増税に傾いている。
ただ、野党はもちろん、与党内にも慎重論、反対論が根強く、議論は難航必至だ。
震災復旧・復興では、がれきの撤去やインフラ復旧など当面の対策を中心にした4兆円規模の第1次補正予算が5月2日にも成立する見通しとなり、本格的な復興に向け夏以降に編成される第2次補正に焦点が移る。第1次補正は基礎年金の国庫負担率を引き下げて2.5兆円をひねり出すなど、国債を発行せずに財源を確保したが、数兆~10兆円規模ともいわれる第2次補正は国債に頼らざるを得ないというのが常識だ。
問題は、増税が所得税や法人税か、消費税かだ
そこで、震災復興に使途を限定した「復興再生債」を発行し、一般会計とは別枠で管理し、特別税で償還していく――という方策が政府・与党で検討されている。震災により日本経済が大きな打撃を受けたことから、増税するとしても数年先になるというのも、衆目の一致するところだ。
最大の問題は、どの税目を上げるかだ。所得税や法人税か、消費税かが大きな分かれ目。
消費税は1%の税率アップで約2.5兆円というまとまった税収が得られる一方、低所得者の負担が相対的に重い「逆進性」が弱点。被災地住民も負担するという問題もある。
所得税、法人税は所得の多い個人、法人がより多く負担することになる。所得税は、かつての定率減税と逆に所得税の例えば1割を上乗せする「定率増税」や、5~40%の税率を一律で上げるなどの案がある。1割の定率増税の税収は約1兆円。法人税も1割の定率増税なら数千億~1兆円程度の税収増になるし、2011年度税制改正法案に盛り込んだ法人税の税率5%引き下げを撤回すれば6000億円になる。
ただ、それでも消費税ほどまとまった税収にはならない。所得税はただでさえサラリーマンと個人事業者らとで所得の捕捉に差があり、また、所得のある現役世代に負担が偏る問題もあり、サラリーマン層から「不公平」との批判が出るのは避けられない。
ブレーンの小野善康氏の影響なのか
民主党執行部は「償還財源は税以外のものはない」(18日、岡田克也幹事長)との立場で、菅首相を含め、消費税を本命視している。玄葉光一郎国家戦略相(党政調会長)は消費税を被災者に還付するのは実務的に難しいとの議論について「被災地への配慮は技術的に可能」(19日)と踏み込んだ。領収書による実費還付は事務的に不可能というのが常識だが、年収の一定割合を消費税額とみなして還付するといった手法が念頭にあるとみられる。
政権サイド、特に菅首相が消費税に軸足を置くのは、ブレーンの小野善康・内閣府社会経済総合研究所長の影響との指摘がある。小野氏は新聞のコラムや日本記者クラブでの講演などで、日本経済が大変な時に「いつ返せるか分からない国債発行は一番危ない」と指摘し、消費税アップを主張。このようなときの増税は「すぐに復興のために使われ、すべて需要創出になる」と、増税=経済にマイナスとの議論を批判している。
こうした経済理論もさることながら、菅首相には、1次補正予算案で基礎年金の国庫負担分を転用した経緯も踏まえ、6月をメドに結論を出すとしてきた「税と社会保障の一体改革」に絡める思惑も見え隠れする。こうした事情もあって、民主党内でも小沢一郎元代表のグループを中心に増税反対論が根強い。
また、野党も「復興名目の政権延命策」との警戒心を抱く。ただ、野党側は「消費税は社会保障に充当すべきだ」(19日、石原伸晃・自民党幹事長)、「直ちに消費税をあてることには賛同しがたい」(同、山口那津男・公明党代表)とけん制するものの、所得税増税などの明確な対案があるわけではなく、決め手を欠く。
読売、毎日、日経は「増税やむなし」打ち出す
復興財源を巡る大手紙の論調も分かれる。バラマキの見直しと当面の国債発行は自明のこととして、読売、毎日、日経は増税やむなしを打ち出している。なかでも読売(20日付社説)は「消費税を中心に検討することになるのではないか」と、消費税に明確に言及。毎日(21日付社説)も増税容認を打ち出し、広く、公平感が得られ、被災地の負担を最小に、などと条件を列挙し、消費税が望ましいとのトーンをにじませる。
日経は「いずれ増税も避けられまい」(15日付社説)としつつ、具体論には踏み込まない。朝日も増税の是非を含め、22日までに明確な論は打ち出していない。これらに対し、異彩を放つのは産経。22日付1面トップに「主張」を置き、「いま増税 とんでもない」との見出しで、「法人税減税は実行すべきである」「経済成長を促して税収増を考えるのが先だ」などと訴えている。