2009年にがんで亡くなったSF作家、伊藤計劃(けいかく)さん(享年34歳)の「ハーモニー」が、2011年4月22日、アメリカのSF賞「フィリップ・K・ディック賞」で次点に当たる特別賞を受賞した。米国の著名なSF賞を日本のSF小説が受賞するのは初めてだといい、大きな話題となっている。
伊藤さんは武蔵野美術大学卒業後、ウェブディレクターとして働きながら執筆活動を行い、小松左京賞最終候補となった「虐殺器官」で07年にデビュー。09年3月に肺がんで亡くなるまでの2年ほどで長編3作ほかを発表した。
米国でも高評価「最高のディストピア小説」
精緻な論理とハードなストーリーが特徴で、テロや内戦、情報管理社会など現代世界も抱える問題を、近未来を舞台に描いた。
受賞作「ハーモニー」も医療技術の進歩で病のなくなったユートピア的未来の悪夢を描いた作品だ。08年に刊行され、伊藤さんの死後、09年12月に日本SF大賞を受賞。翌10年に米国で英訳版が発売された。
フィリップ・K・ディック賞は、前年に米国内で発売されたペーパーバックのSF作品を対象にした賞。「WEB本の雑誌」に掲載された評論家、大森望さんの記事によると、英訳された日本のSF小説が米国で大きなSF賞を受賞するのは恐らく今回が初だという。「ハーモニー」は受賞前から米国で高評価だったようで、米国アマゾンのレビューでは星5つがほとんどだ。「これまで自分が読んできたディストピア小説の中で最高の一つ」「もっと多くの人に読まれるべき!」といった感想が書き込まれていた。