人類学者の中沢新一さんが突然、「緑の党のようなもの」を作ると宣言した。旗印の一つは脱原発らしい。
これまでも積極的に社会的発信をしてきた人だが、いまのところそれ以上の説明はなく、思想家や評論家の間だけでなく、ネットの世界でも「何が飛び出すのか」と話題になっている。
「原発事故で日本が折れてしまった」
思想家の内田樹さん、「ラジオデイズ」プロデューサーの平川克美さんとの鼎談は2011年4月5日に行われ、「いま、日本に何が起きているのか」と題してユーストリームで生放送された。
原発事故を受けて、中沢さんは「言葉を発することを控えた」「考え抜いた」「物理の教科書を読み直すことから始めた」ことを披露。震災・津波被害とはまったく別のもので、「日本の歴史がポキッと折れた」と表現した。
その上で飛び出したのが結党宣言だった。「情報の集合場所、研究者の接合の場所としての、『緑の党』のようなものを作ろうと思います」。「緑の党」という言葉を使ったものの、その思想的基盤はドイツなどの緑の党とは異なるとして、具体的な活動プランや参加者などについては、近く「宣言」「綱領」を発表するとして詳しく語らなかった。
中沢さんは1950年生まれの人類学者、思想家。83年、チベット修行の体験を元に書いた「チベットのモーツァルト」がベストセラーとなり、「ニュー・アカデミズム」の旗手といわれた。政治や宗教に対する著作や発言も多く、オウム真理教について宗教学の立場から語った内容が、地下鉄サリン事件後に批判を浴びたこともある。
新しい環境政党への期待はあるはず
鼎談の中で中沢さんは、原子力は化石燃料などと違い生態系の外にあるエネルギーであり、人間にはコントロールできない存在だと指摘。今回の「第7次エネルギー革命」の挫折を踏まえ、東北を「復旧」するのではなく、新しい形の先進地帯へと「復興」させるというビジョンを述べた。
これに対して評論家の東浩紀さんは、21世紀の社会運動と位置づけて柄谷行人さんが2000年に立ち上げ3年後には解散した「NAM」を引き合いに、「NAMのようにならないことを望みます」と、ツイッターでコメント。懐疑的な声が挙がったその一方で、「党員になりたい」「これは日本はじまるな」と中沢さんに期待する人も少なくない。
「フクシマ」事故を受けて、ドイツでは、3月27日の州議会選挙で「緑の党」が大躍進。最近の世論調査では、与党「キリスト教民主・社会同盟」の支持率30%に対し、「緑の党」は28%に肉薄している。
中沢さんの発言は、4月18日にビジネス情報誌「オルタナ」が紹介したことで、あらためて話題を呼んだ。編集長の森節さんによれば「日本では環境政党がこれまであまり育ってこなかったこともあり、その『受け皿』としても期待が高まっているようだ」という。
日本では、俳優の中村敦夫さんが「みどりの会議」を立ち上げたが、中村さんの参院選落選を機に2004年に解散した。その後身が、地方議会議員などでつくっている「みどりの未来」。このところ、入会希望やメールマガジンの申し込みが増えているという。運営委員の宮部彰さんは、中沢さんの構想について「政党・政治団体というよりも、思想運動あるいは提言集団・シンクタンクのようなものを目指しているのではないか」と話している。
J-CASTニュースが、中沢さんが所長を務める多摩美術大学・芸術人類学研究所を通じて取材を申し入れたところ、「取材などは、現時点ではまだお受けできない」とのことだった。中沢さんは、雑誌「すばる」で論考「日本の大転換」を発表する予定になっており、その中で「緑の党」構想についても改めて言及があると見られる。