震災の影響が出たとして、解雇されたり賃金をカットされたりした――。労働組合のホットラインなどに、全国からこんな相談が相次いでいる。しかも、震災を口実にした「便乗解雇」とみられるケースも多いというのだ。
東京都内の健康食品会社に勤める30代の正社員女性は、地震発生後の2011年3月14日に有給休暇を取ったところ、会社から退職を迫られた。
「非常時に人間が試される」
東京管理職ユニオン池袋が震災に関連した労働相談で、4月14日に受け付けた例だ。会社は人員整理をしており、社長は「非常時に人間が試される」とその理由を語ったという。この女性は、退職に応じないと解雇と言われ、自己都合理由の退職届を書かされ、「納得できない」と訴えてきた。
ユニオン専従スタッフの安部誠さんは、「会社はリストを作って同じことをしており、社員4、5人が相談してきました。これなどは、便乗解雇の典型だと思います」と話す。
労働組合のホットラインなどには、このところ、震災の影響を理由とした解雇などの相談が増えているようだ。派遣ユニオンなどでつくる全国ユニオンでは、3月26日に震災ホットラインを設けたところ、293件もの相談があった。これは、08年秋のリーマン・ショック直後以上だという。自動車部品工場が減産して雇用契約を打ち切られた、コールセンターで働いていて派遣切りされた、といった例が多かった。
相談例には、震災の影響を避けられなかったケースもある可能性がある。しかし、派遣ユニオンの関根秀一郎書記長は、「大半は、震災に便乗したものだと思います。どこまで指すのか判断は難しいのですが、9割以上はあるのではないか」と言う。
東京管理職ユニオン池袋でも、便乗解雇などとみられるものが同程度みられたという。電力不足の影響で夏場にじわじわ広がる可能性があるため、今後も労働相談を続けていくとしている。
解雇前の休業補償もなく…
派遣ユニオンによると、震災で部品が調達できないという会社側の言い分もあったが、被災地以外で部品調達できる可能性も否定できなかった。また、正社員の給料はそのままで、派遣社員を調整弁に使っているとみられるケースもあったという。
「事務所が決定的被害を受け、雇用調整しないといけないところまで追い込まれていないんですね。会社へのダメージを予見して、その予防のために切っているんだと思いますよ」(関根秀一郎書記長)
2011年3月中は、会社から自宅待機を命じられたにもかかわらず、休業補償が出ないという相談が非常に多かった。労働基準法では、会社都合による休業は賃金の6割以上を支払う義務がある。
ところが、4月に入ると、解雇された、派遣切りされたといった相談が増えてきた。関根書記長は、「会社側が様子を見て、雇用調整を始めたのではないか」とみている。
休業補償もなく、そのまま解雇されたなら生活が大変だ。
本来は、補償がすべての場合にカバーされることになる。会社都合ならもちろんだが、会社に直接被害があったときは、厚労省の特例措置で失業給付金が出るからだ。しかし、計画停電時は休業補償を支払わなくてもよいという通達が3月15日に厚労省から出されており、関根書記長は、「通達によって休業補償にすき間ができてしまい、救済されない人が増えた」と指摘する。そして、その撤回を求めているが、厚労省の監督課では、「会社側が自主的に支払っても、国の助成金が入る仕組みがある」と説明している。