福島県飯舘村の実家から村外の企業に通う新社会人の兄。隣町にある高校2年の弟。原子力発電所のあり方をめぐる評価は真っ二つに分かれた。
2011年4月17日、今春に高校を卒業したばかりの兄の遠藤翼さん(18)は、両親と祖父母、弟と暮らす。夕食後、「津波被害とかの再発防止策をやるのは当然として、資源が少ない日本では原発の全廃は無理だ」といった。こたつの正面には両親、左隣に弟がいる。
取りたての免許でドライブに行く計画も流れた
一方、高校の野球部でファーストの選手として活躍する弟の渉さん(16)は、「原発は今後なくした方がいい。危ないことが今度のことでよく分かった」と反論した。原発をなくすと電力供給が不足するという話もあるが、これには「火力発電と水力発電の強化、それと徹底した節電でなんとかしていくべきだ」と論じた。
3月14日、福島第1原発3号機の建屋爆発のニュースが流れたとき、兄は村内の友人宅にいた。とんでもないことが起きたと思った。ほどなく村の広報車が「外に出ないで」と呼びかけて回り始めた。あわてて友人の車で自宅まで送ってもらった。
卒業・就職を前に高校の友人たちと最後の別れを惜しむはずだった「遊びの計画」は、すべて吹っ飛んでしまった。取りたての免許でドライブに行く計画も流れた。
「カラオケでとことん歌う計画とか、そんなんプライベートでどうでもいいという人もいると思うけど、自分たちにしてみたらすごく大切な時間を奪われた、そう思う。悔しい」
仲間たちとは「中途半端な別れ方」なってしまった。それでも、首都圏に就職した友人から、「何かできることがあったら言えよ」と頼もしい連絡も入った。
「計画的避難」については、「従うしかない」と考えている。
「(菅野典雄)村長とか枝野(幸男・官房長官)さんとかは、真剣に判断してると思うから、文句ばっかり言っても仕方ない。菅(直人)総理はどうでもいいけど」
周囲の友人も、自分たちなりに「放射能のこと、ネットでブワーっと調べて、これは特に若者については、テレビが言うように安全、安全っていう感じじゃないって思ってる人が多い」という。
村内は避難に反対ばかりではない
弟渉さんも、避難した方がいいと考えている。「難しいことは分からない。けど、若い人は将来健康に影響が出る心配があると言う専門家も結構いる。周りにも不安をもってる高校生は多い」。遠くへ転校する生徒も出始めているそうだ。
兄弟とも避難自体には賛成だが、2人とも「家族や仲間とバラバラになるのはいや」と話す。翼さんは「東京に行ったことはあるけど、東京の暮らしには全然あこがれない」。しかし、どうすれば避難と「家族・仲間との絆」を両立できるのか、その答はまだ2人とも見つかっていない。
兼業農家で会社員の父、遠藤利彦さん(50)と幸子さん(47)夫妻は、兄弟の議論をきいて「マスコミ報道をみると、村内は避難に反対ばっかりなのかという印象をもつ人もいるかもしれないが、消極的・積極的賛成の人もいる。若い人の意見も含め、行政は総合的に耳を傾けて対応を決めてほしい」と感想を話した。(文・J-CASTニュース編集部、写真・会田法行)