福島県飯舘村の桜の名所、大雷神社の並木では、まだ一輪の花も咲いていなかった。フィリピン出身で村の農家へ嫁いだ大内ロウルデスさん(45)が「村の桜は毎年、5月の連休近くにならないと咲かないですね」と教えてくれた。
2011年4月17日、隣町の川俣町の道沿いでは桜が8分咲き程度だった。飯舘村でまだなのは、村がより高いところにあるからだろう。飯舘村は現在、福島第1原発事故を受け、「計画的避難区域」に全村が指定された。
原発事故の話に首を横に振った
4月17日夕、ロウルデスさんは、小学4年のマナミさん(10)と2年生のミサキちゃん(7)の2人の娘と、米をつくっている夫の一見(かずみ)さん(64)と一緒に、軽乗用車に乗って飯舘村役場へ来ていた。大雷神社からは車で数分の距離だ。小さな子どもをもつ家庭に支給されるミネラルウォーターを家族で受け取りにきて、役場玄関前にとめた車内で1人で待っているところだった。
原発事故の話を切り出すとロウルデスさんは首を横に振った。それでも、桜の話には応じてくれ、「計画的避難」について「子どもたちが心配だから避難は仕方ないと思うけど、本当はよそへ行きたくない。ここはいい所」と答えた。
「前は安全ですって言ってたのに、今度は避難って何ですか。はっきりしてくれないから怖い。危険なら危険って教えて。避難からいつ戻れるかも」
お父さんより先にマナミさんとミサキちゃんが車へ戻ってきた。マナミさんも、「よそへは行きたくない」という。村外へ避難中の友達がたくさんいて、いつか戻ってくる友達に早く会いたい。「よそへ行くと会えなくなる」からだ。
「今年は花見どこじゃねえ」
一見さんも戻ってきた。原発の話には嫌そうな表情を浮かべた。「今年は花見どこじゃねえ。満開になっても行く人いないでしょ。よそで、花見している人を見ると、正直いい気分はしない。するなとは言わんけど」
大内さん一家は、車の中でも全員マスクをしていた。村が出す回覧板が着用を促しているからだ。一見さんは車を出発させる直前、「とにかく早く原発事故が終結してほしい」と付け加えた。(文・J-CASTニュース編集部、写真・会田法行)