東日本大震災の被災地に、常用の薬や通常時の医療はまだまだ十分には届いていない。多くの医師が応援に入っているが、専門分野は多岐にわたり、身近でベストの医療が受けられるとは限らない。薬も、中断しては危険なものから中断したほうがよいものまでいろいろだ。被災地の患者たちはどのようにして自らの身を守ればいいのだろうか。
薬全般に詳しい浜六郎医師 (NPO法人医薬ビジランスセンター理事長)は、インターネットや専門誌「正しい治療と薬の情報」で、医師向けに緊急情報を発信している。役立ちそうなポイントは――。
中止したほうが安全なケースも
浜さんは、被災地の医師らが「降圧剤やコレステロール低下剤などが不足しているので心配」などと話しているのを聞いて驚いた。浜さんの分類では、コレステロール低下剤は「中止しないと危険な薬」になる。コレステロールは肝臓で作られるが、食料・栄養不足状態ではその材料も不足し、コレステロールや関連物質も減少する。さらにコレステロールを下げる薬を使うと免疫機能が低下し、感染症に弱くなる。薬の一時的な停止によるマイナスは少ない。中止した方が安全だ、という。
危機的な状況・環境では血圧が上がり、血液を多く送る機構が働くが、降圧剤はそれを妨げ、やはり免疫力を落とす。大動脈瘤や心筋梗塞を起こした人などには不可欠だが、多くの場合は「中断しても大丈夫な薬」と考えてよい。
逆に「必須の薬」は、糖尿病患者のインスリン、甲状腺ホルモン剤、中断でショック症状が出るステロイド剤、抗結核剤、気管支喘息の薬、モルヒネなどの痛み止め、心不全や不整脈の薬、急性感染症の抗生物質などだ。
離脱症状があるため「中断は危険な薬」はステロイド剤のほかにもある。抗不安剤、抗けいれん剤、抗うつ剤、パーキンソン病薬、大量服用の場合の睡眠薬などだ。
自分の薬をよく知っていれば安心
いったん中断して薬が届いたような場合、「再開時に注意が必要な薬」もある。ショックの可能性のある抗結核薬のリファンピシン、少量から徐々に増やしたほうが良い抗うつ剤や甲状腺ホルモン剤などだ。
「絶食で危険な薬」というのもある。統合失調症や三環系うつ病薬などは体の脂肪組織に蓄積されており、食事量が不足して脂肪が使われると、薬が血液中に出て高濃度になってしまうという。
「中断しても大丈夫な薬」は、合併症のない人の降圧剤のほか、花粉症、認知症、肝臓病、インスリン以外の糖尿病薬、骨そしょう症薬、ビタミン剤などだ。
応援の医師が個別の病気をすべてよく知っているとは限らない。患者やその家族が、日ごろ飲んでいる薬の分類や効能を理解しておくことも大事な震災対策だ。
医療ジャーナリスト・田辺功
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日本高血圧学会はホームページに「被災地の高血圧患者さん向けQ&A」コーナーを設けて最寄りの医療機関、関係者に相談するよう呼びかけている。