福島第1原子力発電所の事故で、放射性物質の大気中への放出に、周辺諸国では懸念が高まっている。特に隣の韓国では、異常なほど敏感に反応している。
「放射能が来る」との根拠のないデマに踊らされた人が食料品の買い占めに走るケースや、雨の日は放射性物質が地上に落ちてくると恐れて、一部地域の小中学校が休校となるなど騒ぎが収まらない。
水源の川全体にカバーをかける案まで浮上
「放射能の雨が降る」とインターネット上で騒動になったのは、韓国全土で雨となった2011年4月7日。福島第1原発から放出された放射性ヨウ素や放射性セシウムが風に乗って、遠く韓国まで飛んできたうえ雨に混じって降ってくると人々は考えたようだ。
この日、ソウル近郊に位置する京畿道では126の小中学校、幼稚園が休校、休園に踏み切った。通常通り授業が行われたほかの都市でも、登校時に子どもたちがマスクをしたり、レインコートで全身を覆ったりしている様子が伝えられている。
子どもだけでなく、サラリーマンも昼食時に外出を控え、ゴルフ場では、雨天でプレーしたくない客からのキャンセルが続出と、韓国中が相当ナーバスになっているようだ。浄水場には雨水の流入を防ぐためにビニールシートがかけられた。韓国メディアによるとソウル市当局では、市民の水源となっている大型河川、漢江の流域全体にカバーをかける案まで浮上しているという。
実際は、放射線量は心配ないレベルのようだ。韓国の主要紙、中央日報は4月7日の14時、簡易の放射能測定器を使ってソウル中心部の放射線量を計測した。その値は1時間あたり0.24マイクロシーベルトで、年間に換算すると2.1ミリシーベルト。これは、韓国人の年間被ばく量よりも低い値だという。
同日、韓国原子力安全技術院が、朝鮮半島の南側にある済州島で採取した雨水に含まれる放射性物質を分析したところ、ごく微量の放射性ヨウ素と放射性セシウムが検出された。それでも、その水を1年間毎日2リットル飲んだとしても、レントゲン撮影1回分にも満たない数値で健康に害はないとした。
ネット上に飛び交ったデマの影響
それでも休校措置がとられるほど「放射能雨」が恐れられたのは、ネット上に飛び交ったデマの影響も大きい。実は東関東大震災が起きて間もない3月15日、ツイッターに「韓国にもうすぐ放射能が飛んでくる」と投稿されて韓国のユーザーの不安をあおり、塩や昆布、おむつなどの買いだめが広がったという。今回は、ノルウェーやドイツの気象庁が、朝鮮半島に放射性物質が飛来してくる可能性を発表したのだが、ネット上で「尾ひれ」がついて「恐怖の放射能雨が降る」とうわさが拡大したようだ。
「騒動」から一夜明けた4月8日も、ネット上で放射能雨の話題は尽きない。ツイッターには「昨日は放射能雨、今日は黄砂」「親の立場とすれば、私の体ではなく子どもたちが心配」といったコメントが並ぶ。
韓国民にとって不安が拭えないのは、原子力発電の依存度が高いという国の特性もあるだろう。現在稼働している原発は21基。電気事業連合会の資料によると、原子力発電による出力量は世界6位。また国内の電力供給のうち34%を原発に頼っており、この割合は世界でも2番目の高さだ。そんな事情を抱える中で起きた隣国・日本での未曾有の原発事故と、放射能という目に見えない恐怖に、ややパニック気味になっているようにも見える。
国民の不安が高まる中、韓国政府は、福島第1原発から低濃度の放射能汚染水を海に放出した日本政府の決定に対して「憂慮の念」を伝えた。韓国国会では金滉植首相が、日本側から事前に連絡がなかったことについて「日本が無能だ」と強い調子で批判したという。原発事故の対応が遅れ気味の日本に、矛先が向けられつつある。