福島第1原子力発電所をめぐり、日本に派遣された米国政府の技術者が、「いつまでも続く可能性がある多くの新たな脅威」について警告していたことが明らかになった。海水注入のリスクのほか、注水で格納容器に重量が加わり、さらに強い余震が起こった破裂を招く恐れがあると指摘。これらを避けるためもあり、窒素ガスの注入やホウ素の投入を求めている。
米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)が2011年4月5日、米原子力規制委員会(NRC)の内部向けの3月26日付け評価報告書の内容として報じた。同紙によると、報告書は「日本当局が提供してきたものよりも詳細な技術的評価がなされているが、日米の専門家で共有されているデータに大きく異存している」という。
注水し続けること自体の妥当性に言及
報告書では、これまで日本側が行ってきた「海水をかけて原子炉を冷やす」という対策について、大きく2つの観点から疑問符を付けている。
ひとつ目が、冷却に海水を使っているという点だ。海水の塩分で、1号機の水の流れは「著しく制限されているか、ふさがっている可能性がある」と指摘。程度は低いながらも、2号機と3号機でも同様の問題が起こっていると推定している。ただし、その後、投入する水が海水から真水に切り替わったことから、塩分の一部は洗い流されたとの見方もある。
ふたつ目が、注水し続けること自体の妥当性だ。水を入れれば入れるほど、すでに損傷を受けているとみられる格納容器に重みがかかり、強い余震で破裂する可能性があるという。
NRCの提言を日本側が受け入れたとみられる箇所もある。報告書では、「初めの数日で水素爆発が起き、建屋に大きな損害を与え、格納容器も損傷した可能性がある」として、安定した窒素ガスを注入して再度の水素爆発を回避するように求めている。東京電力では、4月7日未明から、1号機に窒素ガスの注入を進めているところだ。
「使用済み核燃料貯蔵プールの方がリスクが高い」
それ以外にも報告書では、再臨界を避けるためにホウ素(ボロン)の投入を続けるように求めている。ただし、現時点では再臨界の兆候は確認できていないとしている。
作業員の安全についても言及されている。報告書では、核燃料の破片や粒子が最大1マイル(約1.6キロメートル)吹き飛ばされたことを示唆。「作業者を守るために、建屋と建屋の間に落ちた高濃度放射性物質はブルドーザーで除去されるべきであった」と指摘しだ。
さらに、「炉心溶融よりも、原子炉建屋内の使用済み核燃料貯蔵プールの方がリスクが高い」とも指摘。報告書では、3月15日に4号機で水素爆発が起こった時に、プールから大量の放射性物質が環境に放出された可能性があるとみている。建屋上部が吹き飛んでいることから、プールの放射性物質は直接外気にさらされている一方、原子炉では、炉心溶融で発生する放射線が強固な格納容器に密封されていることが理由だ。
かつて日本向けの原子炉を設計した、元米ゼネラル・エレクトリック(GE)社の技術者は、ニューヨーク・タイムズ紙の記事中で、
「将来的に切り抜けるべき不安要素は沢山あるが、ひとつ間違うと事態が大幅に悪化する」
と、厳しい現状認識を披露している。