エネルギーの専門家らでつくる「化学工学会」が、2011年夏の電力不足についてサイト上で緊急提言を行い、大きな反響を呼んでいる。これらの提言を実行すれば、計画停電を避けられるかもしれないというのだ。
化学工学会とは、研究者や技術者ら8000人ほどでつくる学術団体だ。そのエネルギー部会の大学教授ら8人が大震災による電力不足について2011年3月28日に国などに緊急提言をしたところ、関係者らの間で大きな話題になった。
土日に働いたり、勤務時間を夜にシフト
4月4日には、東大政策ビジョン研究センターもその趣旨に賛同して、提言全文をサイト上で紹介している。そのサイトは、ネット上で反響を呼び、はてなブックマークが800以上も付くほどだ。
原発事故の影響で、クーラーなどを使う夏には、深刻な電力不足が予想されている。東京電力管内で、節電しても5500万キロワットの電力需要があるとされるが、それでも4500万キロワットほどしか供給が見込めない。このままでは大規模な計画停電は避けられない見通しだ。
これに対し、化学工学会では、電力需要を時間的・空間的にシフトさせることなどで、数百万世帯分に当たる1000万キロワットほどの不足分をカバーできると提言で試算している。
時間的シフトでは、電力に余力のある土日に働くようにしたり、工場や大学などの勤務時間を夜にシフトしたりすることを挙げる。スペインなどのシエスタのように昼休みを電力ピーク時の13~16時に作ったり、在宅勤務を増やしたりすることも手だという。これで、520万キロワットを削減できるとした。
また、空間的シフトでは、サーバーを東日本以外に移設したり、生産拠点移動に伴って家族で引っ越してもらったり、学生の国内外留学や東日本以外への旅行を勧めたりすることを挙げている。95万キロワットの節約になり、時間的シフトと合わせて、615万キロワットになる計算だ。
ツイッターでは、千数百件もの反応
化学工学会の緊急提言では、さらに身近な電力供給力利用で365万キロワットを増加させ、省エネ利用の徹底などで280万キロワットを削減できるとしている。
供給力増強では、太陽光発電や蓄電池、防災用自家発電などの利用を挙げた。省エネでは、旧式から省エネの最新式に冷蔵庫やエアコンなどを買い替えたり、空調をガス化したりすることを提案。ライフスタイル面でも、自販機停止やバッテリー駆動のノートパソコン利用、テレビ視聴停止などで省エネを実現できると指摘した。
これで時間的・空間的シフトと合わせて、1260万キロワットの電力を減らせる計算になる。
化学工学会によると、ネット上などで大きな反響があり、ツイッターでは、千数百件も反応があったという。「分かりやすい」「総合的な見方でよい」などの評価が9割ほどで、残りが「実行できるか疑問」といった批判だった。
提言者の1人である早大の松方正彦教授は、その意図についてこう説明する。
「3時間も計画停電すれば、工場ではその前後も操業できずに動かなくなります。また、お年寄りが暑さでダウンするなど社会的弱者にもしわ寄せがありますので、望ましくありません」
そのうえで、松方教授は、「特に時間的シフトで、電力ピーク時の需要を平準化することが大切です。それが、この夏の分かれ目になる大きな勝負となるでしょう」と指摘する。そして、節電に理解してもらうためにも、東電に対し、電力総量だけでなく、地域ごとや一般・大口利用者ごとの時間変化データもリアルタイムで出すことを求めている。
「火力発電所を増設するのにも時間がかかり、へたをすると、電力不足が5~10年も続くことになります。勤務時間の夜間シフトなどには痛みも伴いますので、政治家がリーダーシップをもってやるしかありませんね」