中性子線はコンクリートで止まるのか 専門家「厚さ55センチで10分の1」

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   放射線の一種で透過力が強い中性子線はコンクリートでとまるのか。「水やコンクリート」で中性子線が止まる、とする図をマスコミ報道でよくみかけるが、インターネット上では、「中性子遮へいコンクリート」など特殊なコンクリートか「相当分厚い」コンクリートでないと中性子線は透過してしまう、という指摘もある。

   福島第1原発事故を受け、普通の鉄筋コンクリートの建物では、いざというとき中性子線から身の安全を守れないのではないか、という漠然とした不安が、関心をもたれる背景にあるようだ。中性子線とコンクリートの関係について、専門家にきいた。

マスコミ登場の図では「水やコンクリートで止まる」

   核燃料が核分裂反応を起こすと中性子線が放出される。1999年の茨城県東海村のJCO臨界事故では、強い中性子線を浴びた作業員2人が死亡した。

   マスコミによく登場する放射線の透過力を比較する図では、ガンマ線やエックス線が「鉛や鉄の板」で止まるのに対し、中性子線は最も透過力が強い位置付けで、鉛や鉄も突き抜け、「水やコンクリート」で止まる、という表現になっている。3月22日付の読売新聞朝刊や、25日の日経新聞夕刊、22日朝放送のNHKニュースでも同様の図・表現が使われていた。経済産業省関連団体や電力会社のサイトなどでも同様の図を見かける。

   一方、ネットの掲示板や個人ブログでは、「相当分厚いコンクリートならともかく、その辺の鉄筋コンクリートビルでは(中性子線は)防げない」などの書き込みが多数みられる。もっとも「中性子線はコンクリートで止まる」とする「反論」も多く載っている。

   どちらの理解が正しいのか。独立行政法人、理化学研究所(埼玉県)の仁科加速器研究センターの上蓑義朋・安全業務室長に質問した。

   一般論として、中性子線の線量を半分にするには、普通のコンクリートなら厚さが30センチ程度必要で、45センチの厚さなら線量は4分の1に、55センチ程度なら10分の1に減るという。特殊な中性子遮へいコンクリートならもっと薄くても効果がある。普通のコンクリートは完全に中性子線の透過を妨げる、というわけではなさそうだ。しかも、鉄筋コンクリートの建物では、壁は厚さ30センチより薄そうだ。

   例えば、福島第1原発の半径20-30キロの屋内待避地区(現在は自主避難呼びかけ)内のコンクリート建物は、仮に中性子線を心配しなければいけなくなった場合、大丈夫なのだろうか。

距離20キロは「厚さ10メートルのコンクリートと同じ」

   上蓑室長はまず、「原子炉内で臨界に達して、かつ圧力容器などが爆発して大量の中性子線が放出される」事態は、「ほとんど起こりえない」と考えている、とことわった。その上で、机上の計算上、そういう事態が起きたと仮定しても、20キロメートルも離れているということは、「10メートルの厚さのコンクリートに守られているのと同じこと」で、「心配しなくていい」という。

   結論としては、マスコミなどが使う「中性子線は水やコンクリートで止まる」という図の妥当性はどうなのだろうか。上蓑室長は、「ほかの放射線との違いをわかり易くイメージしてもらうものとしては適切ではないでしょうか」と評価した。

   その上で、「近くから多くの線量の中性子線が出た場合、厚さ2、3センチのコンクリートでも大丈夫、という印象をもし持つとすれば、それは誤解だとは知っていて欲しいですね」とも話した。

   また、放射線を出す放射性物質が風などにのって飛散することと、原発から出た放射線が一定区域まで届くことの違いを理解することも必要だと指摘した。

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