国際原子力機関(IAEA)が、福島第1原子力発電所での再臨界の可能性を指摘したと米ブルームバーグが報じた。
米国の科学者は、1号機の冷却用に使われた海水に含まれていた「塩素38」という物質を「再臨界」の根拠としたが、反論もある。原子力安全保安院も再臨界を否定している。
13回にわたって中性子を観測
ブルームバーグ日本語版は2011年3月30日付記事で、IAEAがオーストリア、ウィーンで30日に開いた記者会見で、福島第1原発が「再臨界」の可能性もあるとみて分析作業を進めていることを明らかにしたと伝えた。
英語版でも同様の記事が配信された模様だが、その後削除、または最新記事更新の際に「上書き」されたのか、サイト上で閲覧できない。ただし、米タイム誌(電子版)などで引用されている。それによるとIAEA原子力安全担当のデニス・フローリー氏が、福島第1での再臨界の可能性について「最終判断ではない」としたうえで「これ(再臨界)は部分的に起きる恐れがあり、放射性物質の放出が増加するかもしれない」と述べたとしている。
IAEAのウェブサイトや公式動画ページには、30日の発表内容をまとめた文書や会見の映像が見られる。だがここでは、福島第1の再臨界について一切述べられていない。一方ブルームバーグ英語版は3月31日の「続報」の中で、「IAEAが昨日(30日)指摘した、限定的ながらも制御不能な連鎖反応の恐れ」と遠回しな言い方ながらも、再臨界について触れた。
1号機の原子炉燃料棒の部分的な融解が原因となり、単独で核連鎖反応が起きる可能性は今後も否定できないと、IAEAのフローリー氏が述べたとしている。専門家によるとこのような核連鎖反応は「局所的臨界」と呼ばれる。熱波と中性子の放出を伴い、ときによって「青い閃光」が起こるという。
実際に再臨界が起きていた、としたのは先述のタイム誌だ。米科学者フェレンツ・ダルノキ・ヴェレス博士の論文内容を紹介した。同博士は、3月13日以降福島第1原発の南西1.5キロの地点で、13回にわたって中性子線が観測されたとの共同通信の記事(3月23日付)に注目したという。
「炉心には今でもある程度の中性子がある」
さらにダルノキ・ヴェレス博士は、3月25日に東京電力が発表した、1号機の原子炉を冷却するために使用された海水に含まれる放射性物質の調査結果について解説。特に同博士が強調したのが「塩素38」という物質の存在だ。半減期が37分と短い物質にもかかわらず高濃度で検出されたため、注水された海水の塩に含まれる「塩素37」が中性子と結びついて作り出されたものではないかと推測し、1号機の原子炉が中性子を生む「再臨界」だったのではないかと考える。
しかし、この「再臨界説」には懐疑的な向きもある。東京大学大学院理学系研究科の早野龍五教授は3月26日、ツイッターで「塩素38」について触れ、「炉心には今でもある程度の中性子がある(必ずしも臨界を意味しない)」と書いた。続けて「海水を真水に変えれば改善するはず」としている。すでに1号機への注水は、海水から真水に切り替えられている。
枝野幸男官房長官は3月31日午前の記者会見で、IAEAが再臨界の可能性を指摘したことを質問され「あらゆる事象について可能性を否定できない」としながらも「そうした事態が生じているという明確な兆候があるわけではない」と答えた。また経済産業省原子力安全・保安院も同日、現段階で再臨界が起きている可能性を否定している。