福島第1原子力発電所で、タービン建屋の地下から高濃度の放射性物質を含むたまり水が見つかった。原子炉圧力容器内にある燃料棒の損傷で、汚染された水が漏出したようだ。
国内の専門家は、圧力容器の底部が損傷しているのではないかと推測するが、具体的な場所は特定されていない。一方、米ワシントンポスト紙(WP)は原子力工学の専門家の見方として、圧力容器の下部にある制御棒挿入用の穴から水が漏れた疑いがあると説明した。
「黒鉛のふた」が高温と放射性物質で劣化
2号機のタービン建屋のたまり水からは、通常の原子炉内の水と比べて約10万倍と高濃度の放射性物質が測定された。1、3号機でも、タービン建屋の地下や、建屋の外につながる「トレンチ」と呼ばれるトンネルから放射性物質を含む水が検出されている。
原子力安全委員会は2011年3月29日、2、3号機について、圧力容器損傷の可能性に触れた。過熱した燃料棒を冷却するため、原子炉内に注水を続けているものの水位がほとんど変わらない点からも、漏水が疑われていた。新聞各紙の報道でも、汚染水は圧力容器の底から漏れ出したとする複数の専門家の見方を紹介している。
米ワシントンポスト紙電子版(WP)はこの点を3月28日付記事で検証した。福島第1原発の原子炉は「沸騰水型軽水炉」と呼ばれ、圧力容器の底部から制御棒を出し入れして原子炉の出力(核分裂の割合)を調整するタイプだ。底部には複数の小さな穴があり、下から制御棒を挿入する。穴はグラファイト(黒鉛)製の「ふた」でふさがれているという。
WPが引用したのは、米国の原子力工学の専門家で、40年近く原子力分野に携わっているアーノルド・グンダーセン氏の解説だ。同氏によると、今回汚染した水が漏れたカギは、この黒鉛製のふたにあるという。東北関東大震災と巨大津波で原子炉の冷却システムが故障し、圧力容器内で燃料棒が「むき出し」となって温度が上がり続けた結果、ふたも劣化したのではないか、と指摘する。
記事中では、「華氏350度」(セ氏約177度)を超えると黒鉛は劣化が始まるとなっている。1~3号機の圧力容器内の温度はこれまで、たびたび300度を超えるなど高温に達した。さらにグンダーセン氏は、破損した燃料棒のかけらが圧力容器の下部にたまったことで、ふたが高濃度の放射性物質にさらされている点も挙げた。異常に高い温度、放射性物質濃度の環境に置かれ続けていることで劣化が進み、容器内の水が漏れるような傷がついたとしても不思議ではない。
圧力容器とつながる配管の破損個所から地面、海に漏出?
グンダーセン氏は、自身のウェブサイトで汚染水漏出のメカニズムを図解入りで説明している。図では、圧力容器とつながる配管のうち損傷したと考えられるものを「赤」で表示しており、かなりの部分を占める。放射性物質を含んだ水が配管を伝って流れる過程で、配管の破損個所から地面に、あるいは直接海に流れ込んでいるのではないかと同氏は結論づけている。
3月29日付朝日新聞(朝刊)によると、東京電力の武藤栄副社長は、「圧力容器につながる配管や、格納容器にはいろいろな部分がある」と述べたうえで、配管の弁などが高温、高圧になれば水が漏出する可能性があると話した。また東電の黒田光課長が会見で、圧力容器について「下の方に穴があいているというイメージ」と述べたという。2号機は、3月15日に起きた爆発で、圧力容器を覆う格納容器の下部にある圧力抑制室が破損した疑いがある。圧力容器から汚染水が格納容器に漏れ、さらに圧力抑制室の壊れた部分から外部に漏出、という可能性もあるだろう。
汚染水の除去作業はすでに始まっているが、1~3号機では当面の汚染水の移し先としていた復水器が満水のため、別のタンクに復水器の水を移し換えてから作業、と手間がかかっている。1、2号機では圧力容器内の温度が上昇しており、冷却水を注水しながら汚染水の排水作業を続けなければならず、各号機で難航している。