「生き残った車も純正ナビが無いために、お客様に納めることができない」
首都圏のトヨタ系新車ディーラーの営業部長はこう嘆く。東北関東大震災発生の影響は裾野の広い自動車産業の隅々まで及び、2010年度最後の追い込みを掛ける新車販売業界にまで届いた。
カーナビゲーションシステム本体の電子部品の生産が止まり、カーナビゲーションメーカーの生産ラインも停止。純正カーナビの供給ストップは、国内すべての新車ディーラーが頭を抱える事態となった。
「ナビが付いていないのなら、今はいらない」
トヨタ系新車ディーラーが扱うディーラー装着オプションの2010年型純正カーナビは7機種ある。このうち供給可能な機種は、中国で生産されている1機種のみ。それも10万円を切る価格のナビで「ヴィッツなどのコンパクトカーを購入されるお客様しか選ばない商品。ミニバンやSUVのお客様は、まず選ぶことがない」(首都圏のネッツ店の店長)という。
ネッツ店は震災の中でも無傷で残った在庫車両を数多く持っていた。だが車両を注文したユーザーが純正ナビの装着を選んでいた場合、新車の登録はできても新車ディーラーが装着するはずの純正ナビが無く、注文どおりの仕様にして購入者に手渡すことができなくなった。
「ナビが付いていないのなら、今はいらない」(同)と納車を断るユーザーも現れたという。大きな原因は「ナビがいつ入荷するかをお客様にはっきり言えない」ことにある。
カーナビなど車用電子基盤の生産拠点は東北地方に多い
カーナビやエンジン制御などに使用される車載用電子基盤の生産拠点は東北地方に多く存在している。このため東日本大震災の自動車産業界への影響は、トヨタ自動車の小型車を受託生産しているセントラル自動車や、日産自動車のV型6気筒エンジンを生産するいわき工場などの被害に止まらない。地震発生後の点検を終えて、いつでも稼動できる状態にある自動車生産拠点も、看板方式による部品供給の問題がいまだに確認・解決できないでいる。カーナビメーカーも同様だ。
震災の余波は世界へと広がっている。
3月の国内新車市場は2010年9月にエコカー補助金が終了したことにより、前年の8割程度の実績になると予測されていた。だが3月11日に発生した震災による直接の被害や自動車生産の停止、計画停電への対応、原発の問題などにより、3月後半の東日本地域での新車受注は大きく落ち込んでいる。一方で西日本地域の新車ディーラーの受注は好調が続いている。
多くの新車ディーラーが新車の供給を絶たれ、さらに在庫車に付ける純正カーナビがない。しかもカーナビは供給再開のめどが立っておらず、新車の生産再開もどうなるかわからない状況にある。エコカー減税とエコカー補助金によって潤いを取り戻した新車販売業界だが、それも震災によって一変した。被災地以外の新車ディーラーの経営者たちも、企業としての存亡の危機に面していると考えはじめている。