東北関東大震災の影響で在日中国人の帰国ラッシュが相次いだ。中国政府が帰国するように勧告し、親達も子供に戻ってくるように強く呼び掛けたためだ。中国からの留学生や研修生だけで数十万人いるとされ、それが工場や飲食店の労働力になっていた。
それが一気に帰国したために労働力が不足し、繊維業界に至っては数万人規模の中国人研修生が働いていたため、産業自体の崩壊が危ぐされているという。
「工場を停止しなければならない、そんな状況」
日本繊維産業連盟によれば、日本全国には繊維業界に携わる中国からの研修生が数万人規模でいる。彼らは3年の間研修と実習を行うが、現場になくてはならない労働力になっていた。しかし、大震災後に中国政府が帰国を勧めたことと、中国では悲観的な報道が相次いだため、親達が心配して連れ戻すこととなった。
繊維業界で受け入れが多いのはニット。縫製業の中小企業に関しては中国人が大半を占めていた。そうした労働力が一気に居なくなってしまった。
「工場を停止しなければならない、そんな状況が相次いでいる」
と日本繊維産業連盟は頭を抱えている。
どれほどの人数が中国に帰国したのか、はっきり分かっていない。中国大使館が2011年3月21日に発表した数字によれば、この日までに9300人の中国人を中国国内に運んだとし、その大部分は被災地から避難した人々だった。被災地でない場所に住んでいる中国人も相次いで帰国している。
その影響は繊維以外にも及んでいる。中国人が働いている主な業種には飲食店やコンビニ、旅館業などがある。横浜中華街発展会協同組合によれば、中国に帰国するため店を閉める店舗が出ている。コンビニの「ローソン」によれば、中国に帰国した正社員は1人もいなかったものの、アルバイトに関しては急遽、人材派遣の関連会社を通じて日本人のアルバイトを補填した。
今後の日本の雇用を考える教訓になる?
山梨県の石和温泉では16人の中国人研修生を受け入れていたが、7月までの研修期間を切り上げ全員が帰国することになった。中国側からの帰国の要望があったためだ。石和温泉旅館協同組合によれば、研修生といえども最前線で働く貴重な人材だった。大震災以降、温泉地は客足が激減、今は大丈夫だが、客足が戻ったときに人手不足になる可能性も出ている、と話す。
自動車部品業界でも多くの中国人が働いていたが、帰国の途についた人は多い。日本自動車部品協会によれば、部品製造工場は今回災害の被害が大きかった岩手、宮城、福島、茨城に集中していて工場の稼働がストップしている。そのため、中国人労働者が抜けた影響はわからないが、工場の稼働に合わせ中国から戻ってもらうか、国内で新たな労働力を探すしかない、と打ち明ける。
中国の労働者事情に詳しい移民政策研究所の坂中英徳所長によれば、日本の企業は中国人なら集めやすいと安易に採用してきたが、そうした労働力に頼り切ってしまうと今回のようなことが起こるのは当然だ、と警告する。
「日本にもたくさん労働力がありその活用を図ることや、中国人も不安定なアルバイトではなく正社員として採用することを考えてほしい。とにかく、今回は今後の雇用を考えるいい機会になったのではないか」