東北関東大震災の発生から半月を数えるが、首都圏では一部食料品や日用品の品薄が解消されていない。生産拠点が被災して、供給に支障が出ている製品が多いためだ。
牛乳やヨーグルトも、都内近郊のスーパーでいまだになかなか見かけない。入荷するものの、たちどころに売り切れてしまう。最近は原料となる乳だけでなく、商品化に欠かせない紙パックの不足も指摘されている。
「朝早いうちに売り切れてしまいます」
大手乳業メーカーは、震災のため牛乳や乳製品の生産工場が相次いで操業停止に追い込まれている。明治乳業は東北工場(宮城県黒川郡)、守谷工場(茨城県守谷市)、子会社の栃木明治牛乳(栃木県宇都宮市)がストップ。森永乳業は子会社の東北森永乳業(仙台市)が被災した。ダノンジャパンは、群馬県にある館林工場が2011年3月23日から操業を再開したが、初めは生産よりも品質管理を優先させるため、「当初は、出荷に影響がでるかもしれません」と発表している。
3月29日の午後、千代田区のスーパーで牛乳とヨーグルトを探してみた。牛乳は多くの銘柄が品切れだが、かろうじて1種類のブランドが数本残っていた。だがヨーグルトの販売ケースは空っぽだ。店員に尋ねると、少量ながら毎朝入荷はしているが「朝早いうちに売り切れてしまいます」と話す。「1人ひとつにしてください」と購入数を制限しても、飲食関連の「業者」と見られる人が複数で来店して「買い占める」ケースもあるようだ。
一方、新宿区のスーパーを訪れると牛乳、ヨーグルトとも豊富な品ぞろえだった。商品をよく見ると、製造先は石川県や兵庫県、鳥取県といった西日本がほとんどで、関東では群馬県産の牛乳があったものの、大手メーカーの商品は見当たらない。
農林水産省が公表している「牛乳乳製品統計調査」で、2011年1月の生乳(搾ったまま手を加えていない乳)の生産量を見ると、ダントツの首位は北海道だが、それに続く一大産地は北関東や千葉、さらに岩手や宮城など今回の震災で被害が大きかったところが多い。しかも、福島第1原子力発電所の事故の影響で、福島県と茨城県は原乳(生乳)の摂取制限、出荷制限を受けた。東日本では、牛乳やヨーグルトの加工工場が被災しただけでなく、原材料も入手しづらい状況に陥っている。
日本乳業協会によると、牛乳の紙容器やヨーグルトのふたも、生産工場が震災の影響で稼働率が落ちているようだ。酪農家から生産工場へ、さらに小売店へ配送する際の燃料もガソリン不足で思うように手に入らない。さらに計画停電が追い打ちをかけ、「いまだ通常の生産量を確保できておりません」(同協会)という。
増産で出荷量が数百パーセントアップ
横浜市にあるスーパーでは、ヨーグルトが軒並み売り切れている中、ひとつのメーカーの商品だけが豊富に販売されていた。広島県のメーカー「チチヤス」の製品だ。チチヤス広報に聞くと、生産工場の場所は広島で、原料となる「乳」は中国地方や九州地方から手配しているため、震災の打撃は一切ないという。もともと東京も商圏としている同社だが、首都圏でヨーグルトの品薄が続くため、「少しでも消費者に行き渡るように」と生産効率をアップし、関東向けの出荷を増やしているようだ。
鳥取県の大山乳業農業協同組合は、販売エリアが西日本中心だが、関東では唯一、あるスーパーチェーン店が同組合の牛乳やヨーグルトを取り扱っている。広報担当者に聞いたところ、既存の市場への商品供給態勢を維持しつつ首都圏への出荷を増やすために牛乳の生産量を増やし、最近では出荷量が「数百パーセント伸びました」という。
しかし、喜んでばかりもいられないようだ。紙容器が入手困難になっているという悩みは、チチヤスをはじめ他の乳業メーカーに共通している。紙自体が不足しているため、対応できる容器メーカーも多くはない。牛乳やヨーグルトの品薄が完全解決するには、時間がかかる可能性もある。