大学で生まれたアイデアを国が支援し、新しい薬や医療機器を開発する戦略的なプロジェクトによる日本発の有望な治療法が生まれつつある。3月上旬、神戸市の先端医療振興財団で開かれた成果報告会で明らかになった。
文部科学省の「橋渡し研究支援推進プログラム」としてこの日報告されたのは、6大学と同財団の計7拠点からの17課題。大学が厚生労働省の承認を受けて実施している先進医療は4件、確定ずみの医師主導臨床試験は5件、企業に渡された薬などは10件となった。
母体の微弱電気から「胎児心電図」
木村芳孝・東北大学国際高等教育機構教授は、妊婦の皮膚表面の微弱な電気を測定するだけで「胎児心電図」を取り出すことに成功した。測定機を担当する企業が臨床試験を計画中という段階になっている。
鈴木茂彦・京都大学形成外科教授らは、潰瘍治療薬の線維芽細胞増殖因子を潰瘍部に塗布後、人工皮膚を貼りつける併用治療法を開発した。人工皮膚には薬物保持機能があり、糖尿病などによる難治性皮膚潰瘍の治療効果が高いという。
堀井俊宏・大阪大学微生物病研究所教授らは世界初のマラリアワクチンを開発中だ。マラリア原虫に対する抗体と効果増強物質で、原虫の増殖を妨げる。12年度の臨床試験開始を目標にしている。
がん治療用のヘルペスウイルス
澤芳樹・大阪大学心臓血管外科教授らは重い心臓病の患者さんの心臓に、本人の足の筋肉細胞を培養して作ったシートを張る治療法を開発した。1月、サウジアラビアの患者さんを治療し、話題になった。
藤堂具紀・東京大学TRセンター特任教授らは遺伝子操作により、がん細胞のみで増殖し、がん細胞を破壊する治療用ヘルペスウイルスを開発した。悪性脳腫瘍の膠芽腫(こうがしゅ)から臨床試験が予定されている。
森本幾夫・東京大学医科学研究所教授らはアスベストによるがん・悪性中皮腫に有効な抗体を発見、フランスで臨床試験が始まっている。
(医療ジャーナリスト・田辺功)