福島第1原発から半径20~30キロ圏の住民に対し、枝野幸男官房長官は自主避難するよう促した。このエリアには「屋内待避」指示が出ていたが、エリア入りを避ける物流関係者らが続出し、地元自治体や住民が「物資がない」と悲鳴を上げていた。
2011年3月25日正午ごろ、枝野長官は会見で、対象地区の市町村長らに、住民に対する生活支援促進とともに、「自主避難という手段があることを住民へ周知徹底するよう」要請したことを明かした。
官房長官「避難指示出す可能性否定できない」
枝野長官は、理由として、自主避難を希望する住民が増えていることと、商業・物流が停滞して社会生活の維持が困難になりつつある点を挙げた。物流の停滞とは、危険だとして物流ドライバーらが現地入りを避ける傾向が強まったことを指している。
同エリアを一部に含む福島県のある自治体では、「ガソリンが欲しければ、栃木県まで取りに来て」などと言われたという。枝野長官も以前の会見で、屋内待避エリアで短時間、屋外作業することなどは健康上問題ない、と安全性を訴えたが、十分な効果は出なかったようだ。
会見で枝野長官は、同エリア内の放射線量については、「(屋内待避指示をだした段階から)新たな段階に入っているわけではない」と、今回の自主避難呼びかけはあくまで「社会的要請」によるものだと強調した。
その上で今後、「放射線量が増大し、避難指示を出す可能性は否定できない」とも語った。関係自治体には、避難指示が出た場合は速やかに実施に移せるよう準備するようにとも伝えたという。
福島第1原発周辺の避難・屋内待避指示は、まず東北関東大震災が起きた3月11日に第1原発の半径3キロ圏内の住人に避難指示、3~10キロ圏内には屋内待避指示が出た。翌12日朝には、10キロ圏内に避難指示が出、同日夕には20キロ圏内に避難指示が広がった。12日夕には、第1原発から南へ約10キロの福島第2原発でも10キロ圏内の避難指示が出た。地図上、第2原発の10キロ圏は、第1原発の20キロ圏の中にほぼすっぽり入る形だ。
約30キロ北西で、約24時間の積算放射線量が1.4ミリシーベルト
20キロ圏内避難指示の時点の避難指示対象エリアは10市町村(一部区域が入る自治体含む)で、関係住民・避難民は7~8万人いた。さらに3月15日には、20~30キロ圏内の住民に屋内待避の指示が出された。このエリアには、住民・避難民合わせ約14万人(8市町村)がいた。NHKの報道によると、3月25日14時段階で現地に残っているのは「少なくとも1万339人」(9市町村)という。多くの住民・避難民はすでに自主避難しているようだ。
屋内待避エリアでは、枝野長官の呼びかけ以前から自主避難の動きは始まっていた。福島県川内村では3月16日、同県郡山市へ「全村避難」した。住民・避難民ら約4000人と役場関係者らが、バスのピストン輸送で避難した。他自治体でもすでに住民へ自主的な避難を呼びかけていた。
枝野長官会見を報じた朝日新聞(ネット版、25日)は、自主避難の呼びかけとはいえ、事実上、避難指示が出たのと同じ対応を住民に求めるものだ、として「今後、政府の判断の遅れが問題となるのは必至だ」と批判している。
また、文部科学省は3月25日、第1原発から約30キロ北西の地点で、約24時間の積算放射線量が1.4ミリシーベルトだったと発表した。一般人の年間被ばく線量の限度は1ミリシーベルトとされており、これを超える値だ。