2011年3月22日、東京都内で財団法人「食の安全・安心財団」が主催する「メディアとの情報交換会」が開かれた。大震災で東京電力福島第一原子力発電所が被災し、放射能汚染に対する国民の不安が高まっているなかでの開催だ。
食品の放射能汚染について講演し、メディアからの質問に答えたのは滝澤行雄・秋田大学名誉教授 (公衆衛生学) 。滝澤さんは中国などの核実験時の放射能汚染を測定、ロシアのチェルノブイリ原発の影響調査も。水俣病のメチル水銀など食品汚染にも詳しい。
食品衛生法で流通ストップ
放射能汚染の暫定規制値はヨウ素、セシウムなどの核種ごとに国の原子力安全委員会が定めているもので、飲料水や牛乳はヨウ素300 、セシウム200 、野菜類はヨウ素2000、セシウム500 (単位はキログラムあたりのベクレル) などとなっている。
3月18日に茨城県高萩市で採取したホウレンソウは最高でヨウ素が15020 、セシウムは524 だった。また川俣町の17日の牛乳 (原乳) はヨウ素1510だった。厚生労働省は農薬などと同様、食品衛生法により、規制値を上回る食品は流通させない方針をとっている。政府は19日、福島県など4県のホウレンソウなどと福島県産の牛乳の出荷停止措置を取った。さらに23日には福島県のブロッコリー、コマツナなど、茨城県産の牛乳なども追加された。
ホウレンソウのヨウ素は規制値の7.5 倍だが、滝澤さんは食べてもまったく問題ない量だと解説した。規制値は安全を考慮し、おおむね1年程度食べ続けるとした計算になっている。また、海水の汚染で魚介類が放射能を持つのは食物連鎖の結果で、高濃度の汚染が長期間続かない限り、これも危険がないことを強調した。
さらに高濃度汚染の懸念
もう1人の講演者の有冨正憲・東京工業大学原子炉研究所長は「原発の被害は地震でなく、想定外の津波のせい」と指摘した。非常用電源や海水取り入れ装置が失われ、稼働中の原発が燃料プールの冷却が不能になったためで、格納容器内の圧力を逃がすための蒸気放出や建屋の爆発で放射性物質が大気中に出た。有冨さんは「細部は不明だが、回復作業の結果、徐々に機能が戻ってきつつある」との見解を示した。
滝澤さんの解説のように、食品汚染の程度は現段階では心配はない。しかし、23日には野菜類の放射能値は高くなり、水や大気からも検出されている。原発が完全に停止していないため、放射性物質が今後も流出する可能性が高く、広い範囲の食品がさらに高濃度に汚染する懸念がある。
(医療ジャーナリスト・田辺功)