福島第1原発事故を受け、市内の一部が屋内退避エリアとなっている福島県いわき市が「万一に備え」、国の配布指示がない段階で安定ヨウ素剤の独自配布を実施している。対象は、「国の基準により40歳未満(妊婦は40歳以上でも配布)」。同市はサイトで「市民の不満に思う気持ちに応えた」としている。
安定ヨウ素剤は、予防的に服用すれば、体内被ばくによる甲状腺がんのリスクを低減するなどの効果が高い一方、服用量に注意が必要で「飲み方によっては危険」との指摘もある。市販では買うことができないため、ヨウ素を含むうがい薬を飲もうとする人が出たことで、関係機関が「効果はなく、かつ有害」と注意を促していた。
「甲状腺以外の臓器への防護効果はない」
日本医学放射線学会が2011年3月18日にサイトで公開した「放射線被ばくなどに関するQ&A」によると、安定ヨウ素剤は、「本当に手の付けられないような大惨事に人が巻き込まれたとき」に、医師が「若い方への投与を判断します」と説明している。
投与の対象は、いわき市サイトにもあるように原則40歳未満。国の原子力安全委員会の「原子力施設等防災専門部会」が02年4月に示した「原子力災害時における安定ヨウ素剤予防服用考え方について」によると、「40歳以上については、放射性ヨウ素による被ばくによる甲状腺がん等の発生確率が増加しない」ことが、「原則40歳未満」の理由だ。また、安定ヨウ素剤は、甲状腺以外の臓器への防護効果はないとも指摘している。
原子力災害対策特別法では、国の指示後に地方自治体が住民に配ることになっているが、今回いわき市は独自に配布しており、対象の「全15万人に配布している」と産経新聞が3月20日に報じている。備蓄していたものという。
厚労省「医師立会いで飲むように」
いわき市の渡辺敬夫市長は3月18日、市サイトの「市長メッセージ」で、原発事故を受け同市へ避難してきている人の中に、出身自治体から安定ヨウ素剤が配られているのを知ったいわき市民の間で不安が広がっている、と指摘。「なぜ配らないのかという市民の不安に思う気持ちに応え、万が一、高い濃度の放射能物質にさらされた場合に備え」て配布したとしている。
服用のタイミングについて、渡辺市長は「市から指示があった時以外は絶対に服用しない」ことを求めており、「服用いただく際には、私から『服用してください』とお知らせをいたします」としている。
一方、厚生労働省は3月18日、ヨウ素剤は医師らの立会いのもとで飲むようにと福島県や県内自治体に注意喚起した。いわき市以外にも自治体が住民にヨウ素剤を配っているところがあり、中には医師が介在しない形で住民が飲んだケースも出ているという。