東京電力の福島第1原発(福島県)の事故を受け、アメリカ政府が同原発の半径50マイル(約80キロ)以内にいる米国民に対し避難するよう勧告したことが関心を集めている。同様の措置を取る海外諸国が続く一方、米国内の原子力業界からは「日本政府の対応で十分」との異論も出ている。
2011年3月17日、ルース駐日米大使は「80キロ圏内の避難勧告」を日本にいる米国民に出した。在日アメリカ大使館の英語版サイトにも同じ勧告が掲載されている。日本政府は現在、20キロ圏内の住民に対して避難指示を出している。半径20キロ以上30キロ以内では、屋内待避を指示している。米政府の勧告とは数字が大きく異なっている。
シンガポール外務省は「100キロ圏内」避難対象
「80キロ圏内は避難」の勧告を出す国はアメリカだけではない。イギリスやオーストラリア、韓国などが相次いで同様の勧告を日本にいる自国民に出している。シンガポール外務省は「100キロ圏内」を避難対象としている。
福島県大熊町と双葉町にまたがる福島第1原発から80キロ圏の南北を地図上で単純に測ってみると、北は宮城県南部の岩沼市付近、南は茨城県北部の北茨城市付近のエリアとなる。インターネット上でも地図上に80キロ圏の円を描いた図と共に米政府の「80キロ圏避難勧告」のニュースを紹介する個人ブログなどが多数ある。
東北関東大震災で死者も出て、避難所も設置されている北茨城市の総務課によると、米政府の「80キロ圏内避難勧告」については、3月18日昼過ぎ現在、市民からの問い合わせはないという。しかし、米政府勧告とは無関係に以前から福島第1原発事故に不安を感じた市民から「避難する必要はないのか」「(市内の)放射線量はどのくらいか」という問い合わせが「多数」寄せられているという。
北茨城市では、茨城県が県サイトなどで発表する同市の数値をもとに、「数値は人体に影響が出るレベルではない」ということを問い合わせに対して伝えているという。市のサイトでも、3月18日正午前現在の災害情報の中の「福島原発の影響について」の項目中、「人体には、まったく影響ありません。噂等の風評に惑わされず、冷静に対応してください」と訴えている。
米政府判断の科学的根拠に疑問の声も
一方、枝野幸男官房長官は3月18日午後の会見で、米国の避難勧告について「海外にいる自国民保護という観点からは、一般的に求められている水準よりも、より保守的な水準で様々な指示をするというのが、それぞれの政府の当然の対応だと思っている」と、従来の見解を繰り返した。日本政府が指示している現在の避難範囲については「私どもが把握している専門家の意見を含めたデータの中で適切と思われる退避に関する指示を出している」とし、問題ないとの考えを示した。
米政府の判断に対しては、米国内から異論も挙がっている。米国の原発業界には、「80キロ圏内避難」について「科学的根拠への疑問」の声があるという。米ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)が3月17日付で伝えた。同紙によると、米原子力エネルギー協会のスポークスマンが語った。スポークスマンは、日本の「20キロ圏内退避」の判断について「健康面への影響を最小限に抑える点で十分と考えられる」と評価した。
炉心溶融(メルトダウン)が発生した1979年の米スリーマイル島事故の際には、約16キロ圏内の住民に屋内待避措置がとられた。1986年に起きた旧ソ連のチェルノブイリ原発事故は、最終的に約30キロ圏内の住民が強制的に避難させられた。チェルノブイリ事故の際は、北ヨーロッパや西ヨーロッパへも影響し、乳製品や野菜などの放射能汚染問題が発生した。