東京電力の福島第1原発での炉心溶融などを引き起こす契機となったのは、大津波だった。「想定を大きく超えたレベル」――清水正孝・東電社長は会見で今回の津波についてこう語った。「多重防護」されていたはずの「日本の原発安全神話」はもろくも押し流された形だ。
2011年3月13日夜、巨大地震発生後初の会見で、清水社長は「一番の問題は津波によって非常用設備が浸水したこと」と指摘し、今回の津波が想定外の大きさだったと説明した。想定の倍である10メートルの高さの津波が原子力発電所を襲ったのだ。
燃料を「冷やす」作業ができず
原発では、異常が起きたとき、原子炉を「止めて」、燃料を「冷やし」、放射性物質を「閉じ込める」ことで安全を確保することになっている。福島第1原発では、原子炉を「止める」ことには成功したが、燃料を「冷やす」ことができなくなった。「冷やす」ために水を送るための非常用発電機が作動しなかったからだ。
福島第1原発の1号機などには各2台、中には3台も非常用発電機が設置されていたが、今回は結局すべてが作動しなかった。詳細は不明の部分もあるが、非常用発電機自体が津波で水をかぶった可能性や、非常用発電機は「無事」だが発電機に連動する屋外ポンプが海水や障害物の影響で故障したため発電機も動かなかったという指摘が東電関係者の間で出ている。地震直後から津波襲来までの間は、非常用発電機は動いていたようだ。
原発の施設が地震の揺れで壊れたりしないよう、耐震強度を向上させてきたこれまでの取り組みは、津波によって「裏をかかれた」形だ。勿論、津波対策も従来から実施してはいたが、耐震強度の議論に比べ後手に回っていた観があることは否めない。
「地震学的に想定される最大級の津波をシミュレーション」
東電サイトは、原発施設の「地震対策」の一環として「津波への対策」も紹介している。「過去最大の津波を上回る、地震学的に想定される最大級の津波を数値シミュレーションにより評価」し、「重要施設の安全性を確認しています」としていた。発電所の敷地の高さ自体も、「津波の最大高さ」からさらに「津波に対する余裕」を設定した上で決めているとも説明している。
東電サイトの原発関連の記述を読むと、「厳重な安全対策がとられています。このことにより、周辺に影響を及ぼすような大きな事故を未然に防ぐことが出来るものと考えておりますが(略)」、「考えられる最大の地震も考慮して設計しています」など「安全」をうたう記述が目立つ。
3月13日の東電会見では、「今後の津波対策などをして信頼を取り戻すのが大事だ」との発言も出た。しかし、当面は津波対策より他にやるべき喫緊の課題がある。14日11時すぎには、福島第1原発3号機の外側建物とみられる水素爆発が起きた。12日の1号機の水素爆発に続く異常事態だ。枝野幸男官房長官は、原子炉格納容器などの健全性を確認しているとして、「放射性物質が大量に飛び散っている可能性は低い」としている。