花粉症に悩まされる季節がやってきた。この時期は、通勤や通学にマスクを手放せない人も多いだろう。
だが国内には、花粉の被害をほとんど受けない場所がある。近年は、このような避暑地ならぬ「避粉地」に長期で滞在する人も少なくない。
スギ・ヒノキの割合「ゼロ」
3月も中旬に入り、スギやヒノキの花粉の飛散が増えてきた。環境省によると、2011年春の花粉の飛散量は全国的に多く、関東以西では3月上旬から中旬、東北では4月上旬にピークを迎える。昨夏の猛暑の影響で、花粉を出すスギの雄花の花芽がたくさんついたため、東海から近畿にかけては2010年のシーズンと比べて10倍以上、東北から西日本にかけても2~6倍増が見込まれている。関東地方も飛散量が例年の5倍程度と激増しそうだ。
「花粉列島」と化した春の日本だが、例外的に花粉に悩まされない地域もある。その一つが沖縄だ。最近では花粉症の苦しみから逃れようと、観光も兼ねて春に沖縄を訪れる人も多いようだ。
短・長期滞在用のコンドミニアムが並ぶ「コーラルリゾート沖縄」に聞くと、3月に入って連日「8割から満室」の状態が続いているという。特徴的なのは、60代以上の夫婦で、数か月単位の長期滞在者が多い点だ。花粉の時期が終わるまで沖縄で過ごすのだろうか、実際に「花粉を避けるために来た」と口にする客もいる。関東周辺や高知県からの宿泊客も見られる。「沖縄に来てからすっかり(症状が)よくなった」と喜ぶ声も聞くと話す。
林野庁が公表している「都道府県別スギ・ヒノキ人工林面積」(2007年3月31日現在)によると、沖縄県は、スギ・ヒノキが県の森林面積全体に占める割合がごく小さく、統計上ゼロとなっている。同様に割合が低いのは北海道で、1%だ。一方で東京は40%、愛知54%、大阪35%、福岡61%といずれも高い数値だった。調査は5年に1度のためこれが最新データだが、林野庁によると現在でも数値の大きな変化はないという。沖縄に行けばスギ花粉に苦しめられないのは、数字上でも確かなようだ。
島に到着早々マスクを外す
「避粉地」はほかにもある。長崎県平戸市の離島、的山大島(あづちおおしま)だ。長崎県のスギ・ヒノキの面積割合は42%に上るが、この島に限れば1~3%程度にとどまる。平戸観光協会に取材したところ、風が強い的山大島では、防風林としてマツが植えられた一方でスギは使われなかったようだ。風向きも影響していると見られ、九州本土から花粉が風に乗って飛散してくることもないと話す。的山大島と比べて、同協会が事務所を構える平戸島では「少し高台に行くと花粉が舞っているのを感じる」という。
「避粉地体験ツアー」も開催された。平戸商工会などが主催し、2011年2月18日~20日の日程で的山大島に滞在する旅行者を募集したところ、主に60代以上の夫婦で、福岡を中心に15人が参加したという。平戸商工会に聞くと、平戸島からフェリーに乗って45分ほどで島に到着した参加者は、開口一番「(空気が)全然違う」と、花粉対策用のマスクを外していたそうだ。ツアーには長崎大学病院の耳鼻咽喉科の医師が付き添って参加者の診断や講演を実施、また食事にはアレルギーに配慮した材料が使われるなど、工夫を凝らしたと話す。都会の「花粉地獄」から逃れて、澄んだ空気を吸いながらのんびり過ごす「スローライフ」を楽しむには、格好の場所かもしれない。