東京証券取引所と大阪証券取引所が、経営統合に向けて検討に入ることが明らかになった。規模を拡大して国際競争力の向上につなげるのが狙い。世界最大の証券取引所グループ、NYSEユーロネクストが欧州大手のドイツ取引所と、2011年2月に合併合意を発表するなど、世界の取引所の「再編第2幕」が開いたことに、刺激を受けた形だ。
東京証券取引所は、懸案である自らの上場すらいまだ果たせず、国内外の再編の動きは鈍い。このままでは世界の潮流に取り残されるという、危機感が募っていた。
東証が秋にも株式上場し、両者は2012年秋に統合
東証と大証の経営統合は、それぞれに上場する商品を、株式、投資信託などの現物取引所と、先物などのデリバティブ(金融派生商品)取引所に再編する案が有力視されている。統合に向けては、東証が今秋にも株式を上場し、両者は来秋の統合を目指すとされる。
IT(情報技術)の進展に伴い、巨額のシステム投資が必要な取引所は今や「装置産業」だ。統合による規模のメリットは大きく、2000年に欧州の取引所の再編で誕生したユーロネクストが、2007年には世界最大のニューヨーク証券取引所を傘下に持つNYSEグループと合併して欧米をまたぐNYSEユーロネクストが誕生し、ロンドン証券取引所(LSE)もイタリア証取を合併したのが世界的な再編の第1幕。
2010年10月以降にはシンガポール取引所がオーストラリア証券取引所の買収計画を発表したほか、トロント証券取引所を持つTMXグループとLSEも統合に合意。そして、NYSEユーロネクストとドイツ取引所との合併だ。リーマン・ショック後、世界的な合従連衡の動きが再び活発化している。
東証は年間売買代金で世界4位の市場でありながら、こうした国際的な再編の表舞台に立てないでいる。商品開発などで海外市場との連携を強化してきたものの、「資本提携の重要なツール」(東証幹部)となる自らの上場は2005年以降、システムトラブルや業績低迷を理由に何度も先送りしてきた。
一方、デリバティブ(金融派生商品)取引に注力する大阪証券取引所は、東京工業品取引所(TOCOM)との経営統合を模索。国内にはこのほか、札幌、名古屋、福岡の地方証券取引所や、工業品や穀物などの商品取引所が乱立。低迷する取引所も多いが、関係者の思惑が複雑に絡み合い、再編の動きは鈍い。
国内取引所、一気に再編の可能性も?
民主党政権は「日本をアジアの金融ハブにする」とのふれこみで「総合取引所構想」を打ち出した。だが、それぞれの取引所を管轄する金融庁、経済産業省、農林水産省が縄張り意識をむき出しにし、迷走している。取引所関係者は「取引が低迷する商品取引所の救済策」「成長戦略に盛り込むためだけにやっている」と冷ややかで、「笛吹けど踊らず」といった状況だ。
東証の斉藤惇社長は2月18日の共同通信のインタビューで、現物株主体の東証とデリバティブに注力する大証が別々に存在するのは「前々からもったいないと思ってきた」と発言、統合に前向きな姿勢を示した。しかし、大証の米田道生社長は、デリバティブ取引強化に向けて商品取引所との連携を進める考えで、東証が送る秋波になびく様子はなかったが、一変した。
ただ、東証と大証が統合に向かえば、TOCOMや他の地方取引所などがこれに合流する可能性も出てきた。
大手証券系シンクタンクのエコノミストは「これから成長するのはアジアの取引所だが、制度もシステムも未整備。提携するには韓国がラオスの取引所設立を支援したように手間がかかる。その点、先進国の取引所との提携は即、システムコスト削減などの成果につながる」と指摘する。
実際、NYSEユーロネクストとドイツ取引所の合併で年間3億ユーロ(335億円)のコスト削減が可能といわれる。
国内取引所はこうした先進国市場の再編の動きからは完全に出遅れてしまっていたのは確かで、欧米市場の巨大化で投資マネーが日本を通り過ぎてしまう懸念が一段と強まっていた。