2010年10月に実施された過去最大のたばこ増税(1本あたり3.5円)で、9月の値上げ前駆け込み需要と10月の反動減と荒波にもまれた全国のたばこ売上高が、ほぼ増税前の水準を回復してきた。
数量は戻っていないが、「禁煙断念」とのアンケートの結果も多い。思い切った増税だったが、健康増進策としては国がもくろんだほどの効果はなかったようだ。
6割が禁煙に挑戦と回答しながら、実際に挑んだのは4割
たばこは10年10月1日から1箱300円が410円へ36%超値上げされた。日本たばこ協会のまとめでは、10年4~8月のたばこ販売実績は月間180億~200億本、金額にして約2700億~3000億円程度で推移していたが、増税前の駆け込み需要で9月は374億本・5671億円と大幅に増加、その反動で10月は61億本・1261億円に激減した後、11月は110億本・2280億円、12月は153億本・3177億円、1月は133億本・2770億円。主要コンビニ10社の1月のたばこの売り上げも、金額は増加。「販売数量では前年同月を8~9%下回るが、金額は10~20%伸びている」(大手チェーン)。
金額は値上げ効果で回復、本数は値上げ後の買い控えが続いているという結果だが、この数字をどう見るか。日本たばこ産業(JT)は、10年10月の値上げに伴う販売減が予想よりも少ないと見て、2011年3月期の国内たばこの販売本数は前期比12%減(1335億本)と、17%減(1255億本)という従来予想から上方修正、今後の一段の回復に期待を寄せる。
たしかに、各種調査では「禁煙失敗」の傾向が見える。ジョンソン&ジョンソンが10年11月に実施したインターネット調査では、喫煙者の6割が増税前に禁煙にチャレンジすると回答していながら、実際に挑んだのは4割に届かず、うち6割が1カ月足らずで再び吸い始めた(増税前は53%が禁煙に成功する自信があると回答)という。
1日10本以下の人の割合が大幅に増える
厚生労働省研究班の調査(2月8日発表、10年11~12月に面接)では、喫煙者率は男37.1%(前年は36.1%)、女8.9%(同8.3%)で、値上げ前後でほとんど変化がなかった。ただし、喫煙者のうち喫煙本数が1日10本以下の人の割合は、男32.3%、女55.2%と、値上げ前のそれぞれ18.2%と36.8%から大幅に増えた。値上げの効果は「節煙」にとどまり、「禁煙」にまでは至っていないということだ。
では、どこまで値上げすれば禁煙に大きな効果があるのか。東京大学の五十嵐中・特任助教(医薬政策学)が試算したところ、1箱700円で、男性喫煙率(09年で38.2%)は25%まで下がるという(日経新聞2月23日付夕刊)。
また、大阪大の松浦成昭教授の研究チームの試算(2008年)では、1箱500円まで上げると、男性の喫煙率は10%台半ばまで低下し、それにより年間約6600億円の医療費削減効果が期待できるとともに、たばこ税収面でも年1580億円の増収となるという。
ただ、フランスでは2003、04年の増税で価格が約40%値上がりし、消費量は23%減ったものの、喫煙率は2%しか下がらなかったとの報告もある。
こうした状況について世界保健機関(WHO)などの専門家は「価格引き上げとともに、公共施設での禁煙の徹底や、たばこの広告の全面規制などが必要だ」と述べ、さまざまな対策を組み合わせる必要を訴えており、日本では今後も、一段の増税とともに、さまざまな規制強化がさけられそうもない。