入試ネット漏えい事件で、京大に対し、警察に被害届けを出すのはやり過ぎだ、などと異論が相次いでいる。京大には、200件以上も批判が寄せられているが、大学側は、データ照会できないので警察の協力を求めたと説明している。
「カンニングで逮捕させるのは、やり過ぎでは」
テリー伊藤さん「違和感がある」
「見逃した京大にこそ、監督責任がある」
仙台市内の男子予備校生(19)逮捕から一夜明けた2011年3月4日、京大には、電話などでこんな意見が殺到した。これまでに250件ほども寄せられており、被害届け提出に賛成する声もあったものの、その9割以上が批判だという。「マスコミは騒ぎ過ぎだ」といった声も多く、4日だけで150件ほどに達する反響ぶりだった。
京大などの対応については、識者などからも、異論が相次いでいる。
3日放送の日テレ系「スッキリ!!」では、司会のテリー伊藤さん(61)が、大学が警察に頼ったのには違和感があると告白した。京大など4大学をすべて受けている受験生は限られているため、大学同士が協力し合えば警察に頼らず受験者を特定できたはずだと指摘したのだ。カンニングで逮捕されたことは異例のため、「すごい前例をつくることになる」と疑問を呈した。
さらに過激だったのが、脳科学者の茂木健一郎さん(48)だ。
茂木さんは、ツイッターで3日、京大の被害届け提出は、自由な学風の伝統を踏みにじるものだと強く指弾。予備校生が逮捕されると、「世界の笑い者」などと揶揄し、「京都大学、お前は死んだ!」と叫んだのだ。新聞やテレビも無批判で逮捕を報じているとして、「日本のクズメディア、予備校生が逮捕されて満足か?」「お前らが、日本を沈ませている」と激しくやり込めた。
4日には、ブログも更新し、ヤフー知恵袋に寄せられた回答と受験生の答案を付き合わせれば特定できたとして、少なくとも大学は警察が特定した時点で被害届けを取り下げるべきだったと改めて批判した。
「データ照会できないので警察の協力を求めた」
大学が警察に頼るべきでない理由として、茂木健一郎さんは、大学の自治を自ら放棄するような行為であることのほか、受験生に対し教育者の立場からの配慮に欠けていることを指摘した。過去にカンニングをした受験生らとの公平性からも、警察に突き出すのは疑問だとしている。
京大などの対応については、大学関係者からも異論が出ているようだ。
北大大学院法学研究科の町村泰貴教授は、2011年3月3日のブログで、「カンニングで逮捕は行き過ぎだ」と訴えた。過去のカンニング例と比較して取り立てて悪質だとは言えず、大学の監視が行き届かなかったに過ぎないと言う。マスコミがネットの闇のように騒いでいるのはおかしいともした。
一方、大学の対応に理解を示す向きもある。甲南大法科大学院の園田寿教授は、産経新聞の1日付記事の中で、入試業務を不正な手段で妨害したとして偽計業務妨害に問われることについて、「入試問題が流出して入試全体のやり方について支障が生じているので、業務を妨害されたとして罪に問うのも妥当」だとコメントしている。
前例がないだけに、京都府警も、予備校生の逮捕について弁明に追われた。報道によると、府警は、「難しい事件」としたうえで、社会的な反響の大きさや一時行方不明になったことを逮捕の理由に挙げた。予備校生がほっとした表情だったともしており、自殺をほのめかしていたことから保護する必要もあったと言いたいらしい。
京大の広報課では、被害届けを出した理由について、「大学では携帯電話のデータ照会ができませんので、司法の協力を求めることにしました」と言う。独力で特定できたのではといった指摘には、「今の段階では、コメントできることではありません」と話した。
被害届けは、取り下げておらず、今後についても分からないという。予備校生については、不正が判明し次第、失格にするとしている。