2008年秋の「リーマンショック」後に、世界経済は百年に一度と言われる未曾有の危機に陥った。ところが、このピンチをチャンスに変えて70億ドル(約5740億円)を手にした米国人投資家がいる。
ヘッジファンドを運営するデビッド・テッパー氏は、2009年の報酬金額で、著名な投資家ジョージ・ソロス氏を抜いて業界1位となった。いったいどんな人物なのか。
投げ売りだった銀行株を買い占め
テッパー氏は「アパルーサ・マネジメント」というヘッジファンドを運営する。米国の投資情報誌「アブソリュート・リターン・プラス・アルファ」が選ぶ「報酬の高いヘッジファンドマネジャー」ランキングで、2009年にトップに立った。その金額は40億ドル(約3280億円)。2007年以降はランク入りすらしていなかった人物だけに、大躍進だ。
これほど高額の収入を得られたのは、リーマンショック以降の金融危機の際、リスクの高い投資で勝負に出て、成功したからだ。米ウォールストリートジャーナル(WSJ)によるとテッパー氏は2009年初頭、経営不振に陥った米シティグループやバンク・オブ・アメリカ(バンカメ)といった大手金融機関の株式に注目。投げ売り状態だった銀行株を続々と買い占めたという。
かつて「ジャンク債」と呼ばれる高利回り・高リスクの債券の売買で成果を上げていたテッパー氏には、独特の嗅覚が働いたのだろうか。「国有化される」とすら噂された銀行の株、債券相場はやがて上昇に転じる。米ブルームバーグによれば、2009年2月28日から9月までの間にバンカメ株は330%、シティ株は223%と急騰、これだけでテッパー氏率いるアパルーサは10億ドルをもうけた。
アパルーサがほかに運営するファンドとあわせて、2009年に同社が稼ぎ出した利益は70億ドル。社長を務めるテッパー氏が巨額の報酬を手にしても不思議はないだろう。
出身校のビジネススクールに自分の名
米ペンシルバニア州ピッツバーグにある名門校、カーネギーメロン大学のビジネススクールは、「テッパー・スクール・オブ・ビジネス」が正式名称だ。ここはテッパー氏の母校で、1982年に経営学修士号(MBA)を取得している。2004年に5500万ドル(約45億円)を寄付して、校名に同氏の名が付けられた。今日では、同校の顧問を務めており、同じ街にある米プロフットボール「NFL」の強豪チーム「ピッツバーグ・スティーラーズ」にも出資している。
1985年に大手投資銀行のゴールドマンサックスに入社したテッパー氏は、ここで金融取引のノウハウを身につけた。実績を積んだ後の1993年に独立、ヘッジファンドを設立した。
テッパー氏はあまりメディアに露出しないが、2010年9月に米経済専門チャンネル「CNBC」の番組で独占インタビューを受けている。冒頭で司会者に、「私が秘密めいているとか、出たがらないとか言われているけど、そんなことないですよ」と笑いながら話し、「常に結果を出さねばならないプレッシャーに晒されることをどう感じているのか。毎年、何が起きるか見通せるのか」と質問されると「もちろん」と冗談を飛ばす余裕さえ見せた。
一方で、17年間ほぼ一貫してファンドの投資家たちに高額のリターンをもたらしてきた実績を説明。2009年の銀行株での大もうけも「簡単だった」と言い切った。その理由について「米政府が出す財務報告を読めば、何をすべきかが分かった」という。特別な策を講じたわけではなく、政府の資料や発表内容を細かく分析したうえで決断したことを語ったが、具体的な「手の内」は見せなかったようだ。出演した30分間、質問にこたえる口調は力強く、自信に満ちていた。