トヨタ自動車の「ラクティス」が売れている。日本自動車販売協会連合会によると、2010年10月の乗用車ブランド別ランキングでは30位にも入っていなかったにもかかわらず、11月は第23位(2108台)、12月には第3位(6670台)へと大躍進した。2011年1月も6806台を売って第4位だった。
2010年は「プリウス」などのハイブリッド(HV)カーがエコカー補助金の後押しもあって売り上げを伸ばしたが、その補助金が打ち切りになって、最近は再びホンダの「フィット」や、同じトヨタの「ヴィッツ」といった小型車への回帰が鮮明になってきた。「ラクティス」はそんな小型車の「常連」に割って入ってきた。
「コンパクトなのに、大容量」を実現
2005年に初代モデルが発売された「ラクティス」に、10年11月「新型」が登場した。同年9月にエコカー補助金が打ち切られるという、自動車業界としては「逆風」の中での発売だったが、いまや「プリウス」に迫ろうかという勢いなのだ。
ラクティスの特徴は車高が高く、視界のよさにある。ところが、新型はデザイン性の向上に加え、空気の抵抗を弱めて燃費をよくするため、特徴だった車高を55ミリ低くした。「欧州への輸出向けに、燃費を向上する必要がありました」(トヨタマーケティングジャパンの三枝正樹氏)という。
しかし、新型ラクティスは車高が低くなったにもかかわらず、「コンパクトなのに、大容量」を実現した。シートポジションを下げるなどの工夫を凝らし、運転席からの視界も車高を低くしたことを感じさせないし、ラクに乗り降りできるところも変わらない。バックドアの開口高も大型スーツケースが3つ縦にまっすぐ収まる。後部座席をフラットにするのも、後部座席まで手を伸ばさなくても手前のハンドルを引っ張ってワンタッチで倒せるようにし使い勝手も向上させた。
これまでの「よさ」を堅持しながら、燃費の向上と静粛性が増した点が評価されているようだ。
さまざまな生活の場面に「ちょうどいい」
トヨタマーケティングジャパンの三枝正樹氏は、「じつは、ラクティスには明確なブランドイメージがついていなかったのが悩みでした」と打ち明ける。
そこで立ち上げたのが「イマドキ家族調査キャンペーン」。メインターゲット20代から30代の「若い家族」に絞り、マーケティング調査をすることにした。2010年10月から、調査キャンペーンを仕掛け、テレビCMやインターネットで「イマドキ家族に これって、アリ?」と問いかけた。
そこから導き出したのが、「フラット」「ポジティブ」「コンパクト」の3つのキーワード。たとえば、家族の役割をなくし、父親が育児に参加する「イクメン」は当たり前。消費も節約や工夫しながら毎日を「ポジティブ」に楽しむ。無理して遠くへ出かけなくても、公園でお弁当を食べたりショッピングセンターへ出かけたりと家族で「コンパクト」に楽しむ、といった「イマドキ」の新しい家族像を描いた。
これまでは「父親=ドライバー」を想定していたが、母親でも便利に乗れて運転しやすく、また子どもを抱いていても乗り降りしやすくし、買い物の荷物もラクに出し入れできるようにした。
三枝氏は「クルマのあるライフスタイルを徹底調査した結果を参考に、生まれたのがラクティスです」と話し、さまざまな生活の場面に「ちょうどいい」ことを打ち出した。
価格帯も、いま売れ筋で子育て世代に人気のミニバンと軽自動車の「すき間」を狙う144.5万~184.8万円に設定。「一家に1台のクルマとして乗ってほしいですね」(三枝氏)ともいう。