菅政権は危険水域に突入している。政界では「青木の法則」といって、政党支持率と内閣支持率の総計が50%以下になれば、その政権はすぐに瓦解するといわれている。青木幹雄・元自民党参院議員会長の経験則とされる。もちろん調査方法で異なるが、どのメディア調査をみても今の菅政権は「青木の法則」を満たしており、いつ倒れても不思議ではない。
政権末期になると、政局絡みで総理の政務案件が増える。そうなると、政治家は基本事項も満足にできなくなる。
財政苦しいときに資産売却は当然だ
2011年2月22日のニュージーランド南島のクライストチャーチ付近で発生した地震で、多数の邦人が被災したが、本来であれば、すぐに対策本部をたちあげるべきだった。
ところが、22日の菅総理の動静を見ると、16時2分「国会内で常任幹事会」と書かれている。これは小沢氏の処分問題で菅総理が官邸を離れたことを示している。その後の17時26分「官邸でニュージーランド地震対策関係閣僚会議」とある。地震発生時間は日本時間で22日朝9時前だ。
これは小沢問題という政務案件を優先し、ニュージーランド地震の事務案件を後回しにしたということだ。本来であれば、邦人の安全確保が最優先のはずで、地震対策を先に処理して、小沢問題を後回しにすべきであった。常任理事会なんて総理が遅れて行ってもかまわないものだ。
官邸勤務経験がある筆者にとって、これは信じがたい話で、政権末期の混乱を表している。
その一方で、官僚は自らの利権になる些細な案件については政治家に関与させずに、どんどん進めていく。
2月23日の日経一面に、「都心の国有地 定期借地方式で再開発」という記事が載っていた。「財務省は政府が保有する都心部の大規模国有地を、定期借地権を設定して民間に貸す方針を決めた。第1弾として東京・大手町の土地を想定している」と書かれている。
小泉政権の時、筆者は資産負債改革を担当していた。郵政民営化を本丸、郵政民営化とコインの裏表の関係にある政策金融改革を二の丸、それを包含する政府の資産負債の両面をやる資産負債改革を三の丸と位置づけていた。
当時も借金は多く、財政再建は問題だった。財政再建のセオリーは、第1に経済をよくすることだ。それで税収が増える。第2は資産を売却することだ。それで借金を返済し、借金をスリムにする必要がある。第3にムダの撲滅だ。それでもダメなら増税もやむを得ないかもしれない。これらをやらず、増税から行う財政再建は下策だ。借金が1000兆円というが、資産も700兆円もある。映画「武士の家計簿」をみれば、財政が苦しいときには資産売却は当然だ。逆に、資産を売却しないなら、まだ財政は苦しくないと思われる。
「中国のような」官尊民卑の政策
財務省は「賃借料収入は同じ期間の国債の発行コストなどを上回ることを条件とするので、定借の方が財政に貢献できる」と説明するだろう。小泉政権の時も同じことを言っていた。それに対して、「それだけの収益を上げられるなら、土地を民間に売却すれば、民間はその時の有効活用を国よりよく考えてビジネスをする。その結果、土地関連の事業収入もでて、それへの法人税等が生じることを考えると、売却のほうが財政貢献が大きい」と筆者は反論した。
もし財務省のいうように、土地を国有にしたほうがいいなら、資本主義の基本である土地の私有財産制を否定し、土地はみんな国有地として民間に貸与するほうが効率的ということになってしまう。財務省の主張の前提には、民間が土地を所有すると最大に有効活用を考えるという点が抜けていて、国が所有する方が望ましいという官尊民卑の思想が入っている。
小泉政権の時には、筆者の主張が採用され、国有地は売却される方針であった。ところが、政権交代して民主党政権になったら、国が土地を所有するほうがいいという考え方に変わってしまった。まるで土地の私有財産制の否定のようであり、中国のようだ。
新聞記事では、土地を売却すると「霞ヶ関埋蔵金に使われる」と書かれているが、資産を墨守し増税を言い張る財務省の言い分であり、国民の意見ではない。
大手新聞の大手町の土地は、もともと国有地だったのを財務省(当時大蔵省)から安く譲渡されている。だから、今でも大手新聞は財務省に頭が上がらない。だからといって、大手新聞が財務省の言い分をそのまま、引用の形でなく地の文で書くのは情けない。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。