「ホンダの軽」が輝きを失って久しい。かつて品質問題こそあったものの「N360」で市場を席巻し、バブル期にはミッドシップの名車「ビート」を世に送り出した。ところが最近はダイハツ工業、スズキの2強の販売シェアが7割近くまで膨らむなかでホンダの停滞が目立つ。
あるホンダディーラーの店長は「今の商品力ではダイハツ、スズキとは戦えない。軽のエンジンは各社3気筒ばかりになったが、4気筒エンジンを新開発するぐらいのことはしてほしい」と研究所に強い期待をかける。
国内における軽の重要性は強く認識
ホンダ自身、国内事業における軽自動車の重要性は強く認識している。 2009年に退任した福井威夫前社長は事あるごとに「国内では軽の強化が不可欠」と繰り返し、跡を引き継いだ伊東孝紳社長も「軽は将来のわれわれの発展の担保になる」と軽重視を強調する。これはダウンサイジングが進む国内では軽の比率が今後も高く、場合によっては半分を占める可能性すらあると予想しているためだ。
ホンダは2013年度に国内販売を今年度より10万台多い70万台まで引き上げる計画で、このうち26万台を軽でカバーする考え。2011年度の軽販売は16万台程度の見込みのため、今後3年間の増加分はまるまる軽で実現を目指す構想になっている。
以前から軽の競争力低下に危機感を抱いてきたホンダだが、行動に移すのは鈍かった。背景には、軽が国内専用規格であり、世界中に新商品を供給しなければならないホンダにとって優先順位が低かったこと、2008年のリーマンショックで予定が狂ったことが挙げられる。このとき、子会社である八千代工業の軽新工場建設計画は白紙に戻り、新型車開発も中断した。