尖閣諸島沖で起きた中国漁船との衝突事件の動画をユーチューブに投稿した、元海上保安官の一色正春氏(44)が2011年2月14日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で講演した。
一色氏は、流出の動機を「国のため、国民のため、どちらかのウエイトが高いか考えた」などと述べる一方、「国民は真実の報道を求めている」と、既存メディアに対する批判も多く口にした。
「誰が本当の情報を流して、誰が流さないのか、気づき始めている」
会見には石原慎太郎都知事が姿を見せ、「国民を代表して感謝申し上げたい」などと一色氏を絶賛する一幕もあった。
冒頭、一色氏は、
「もし日本と他国の間に争いが起こったとき、片方の言い分だけでなく、日本の言い分も聞いて欲しい」
と述べ、動画流出の背景には、日本側の主張が十分に伝わっていなかったことを挙げた。その上で、国内メディアより海外メディアの方が、東京での「反中デモ」を積極的に取り上げたことについて、
「自国のニュースでも、海外のメディアを通じて情報を得ようとしている人が増えている。それは信頼度の問題」
「われわれ国民は、数ある選択肢のなかから、誰が本当の情報を流して、誰が流さないのか、気づき始めている」
などと国内メディアを批判。動画を流出させる先としてユーチューブを選んだ理由についても、
「自分で最初から最後までできることがポイント。メディアに持ち込んでしまえば、ある程度他人に下駄をあずける形」
「テレビでは44分間まるまる流すことが難しかった。あのような形で漠然とビデオを流すことで、これが本物かどうか、客観的な目で考えられる。テレビだと、どうしても解説者が解説してしまう」
と、「無編集」の重要性を強調した。
また、中国政府に対して言いたいことを聞かれると、
「是非、中国政府の方から日本政府に圧力をかけて『あのビデオを公開しなさい』と言っていただきたい」
とも述べた。
「sengoku38」の由来については口閉ざす
なお、一色氏は2月18日に、著書「何かのために sengoku38の告白」(朝日新聞出版)を出版することになっているが、
「こういう事件が起きるまではメディアは正しい報道をしていると思っていた。推測や憶測で書かれることがあった。最初は反論を考えていたが、面倒になった。具体的に何があったかは、この本を読んで欲しい」
と、メディア批判と絡めた著書の宣伝も忘れなかった。
ユーチューブのIDである「sengoku38」の由来については、
「一貫して秘密にしている。捜査当局、家族、弁護士にも言っていない。公開するつもりもない。ひとつぐらい秘密が残った方が事件が忘れられなくなる。『気にしないで下さい』と言うと気になるだろうが、それが狙い」
として、明らかにしなかった。
会見の最前列に陣取った石原知事は質問に立ち、
「あなたの愛国的な行動に、国民を代表しての心からの敬意と感謝を申し上げます」
と一色氏を称賛。会場からは拍手もあがった。