「最近機種変更した」「ケータイは壊れた」――大相撲の八百長問題調査に対し、「抵抗」とみられても仕方ないこんな対応を示す力士らが出ている。「それなら携帯電話会社から過去のメール履歴などを取り寄せさせ、それを提出させる」と日本相撲協会側は鼻息が荒いが、そんなことは可能なのか。関係者にきいてみた。
2011年2月8日、朝日新聞朝刊は、協会の特別調査委員会が調査対象力士らに携帯電話の提出を求めたところ、「壊れた」などの理由で「提出しないケースが続いている」と報じた。
機種変更だと「復元」することは不可能
今回の八百長メールが発覚したのは、野球賭博事件関連で押収された力士らの携帯電話から削除されたメールを復元したのがきっかけだ。ならば、捜査では押収されなかった、八百長疑惑力士らの携帯電話を調べれば、仮に削除したメールがあれば同じように復元できるはずだ。調査委が携帯電話提出を疑惑力士らに求めたのは当然といえる。
しかし、「壊れた」などの理由で携帯電話を提出しない力士が相次いでいる。勿論、この時期に偶然壊れた可能性もゼロとは言えないかもしれないが、提出しないこと自体が不審がられても不思議ではない。仮に意図的に以前のケータイを廃棄したのであれば、一種の「証拠隠滅」で逃げ得を許すことになる。
ちなみに、データ復元などを行っているAOSテクノロジーズ(東京都)などによると、機種変更されていれば、過去にさかのぼって旧ケータイで削除したメールデータを新ケータイから「復元」することは不可能だ。一方、「壊れた」場合は、メモリー自体に損傷がなければ復元可能だ。同社の話では、機種やケータイの状態にもよるが、「概ね2か月程度」で「過去2~3年分」復元できるという。
ただ、個人からの依頼は「弁護士経由」でない限り基本的に受け付けていないそうだ。
朝日新聞報道などによると、特別調査委は、ケータイ本体の提出がなければ、力士本人に携帯電話会社から過去のメールの履歴などを取り寄せさせ、それを提出させることなどを考えている。
ケータイ本体のデータがだめなら、「携帯電話会社(キャリア)のサーバーなどに残っている(であろう)メール記録を取り寄せれば良い」という発想だ。実現すれば調査は進みそうだ。
本人からの請求でも「開示していない」
ケータイ本体で削除したメールデータは、サーバーなどに残っているものなのだろうか。データが残っているかどうかはキャリアによって違いがある。あるキャリアでは、データを残す有料サービスを行っており、メールデータならケータイ本体で削除したものを含め、数千件程度残して後で閲覧することが可能だ。同サービスを申し込んだ人でなければ、サーバー側にはメール内容は基本的に残らないという。
いつ誰にメールを送ったか、などの記録は残っているが、例え本人からの請求であっても「開示していない」そうだ。本人の請求に対して伝えるのは、料金にかかわる「何バイト使ったか」という「量」の情報ぐらいだ。
また、別のキャリアでは、申し込みの有無にかかわらず、約1か月はメールデータなどをサーバーに保存しており、ケータイ本体で削除したメールも確認できる。期間を超えるデータは、「基本的には料金請求にかかわるデータのみ」残っている。この会社も、「いつ誰にメールを送ったか」の情報は、本人からの請求であっても答えていない。
どうも調査委による「メール履歴データの提出要求」には、大きな壁が立ちふさがっているようだ。もっとも、週刊現代最新号(2月19日号)によると、大相撲八百長疑惑が発覚した際、「ある力士はこうボヤいていた。『メールなんか使うかよ!口だよ口!あんな証拠残しちゃダメだ』」。ただ、メールデータに頼らない八百長調査は余計に難しい。