国内の新規株式公開(IPO)企業数の低迷が続いている。2010年の年間の国内取引所のIPOはわずか22社。前年より3社増と4年ぶりに増加に転じたとはいえ、ピークの2000年204社に比べると1割余り、と底ばい状態だ。
東京証券取引所は、特に低迷が目立つ新興市場の改革案を打ち出したが、日本経済の長期低迷を映して、起業が著しいアジア市場を目指す流れも強まっており、急回復はにわかに期待できそうもない。
株式公開による資金調達の魅力薄れる
「(2010年のIPOは)50社くらいと聞いていたが、実際は22社。(2011年は)70社、せめて50社あればありがたい」。東証の斉藤惇社長は2010年末の会見で、期待外れに終わったIPOの現状を嘆いた。2010年は第一生命保険、大塚ホールディングスなど大型上場もあり、4年ぶりの増加に「底入れの兆し」(証券会社幹部)との見方も出たが、当初予想の半数にも満たないとあっては喜ぶわけにはいかない。
上場機運が冷え込んでいるのは、欧州信用不安や円高を受けて株価が伸び悩み、株式公開による資金調達の魅力が薄れていることが要因だ。だが、新興市場の東証マザーズでは、10年も半導体製造装置メーカー、エフオーアイが粉飾決算で上場廃止になるなど不祥事が相次いだ。2006年のライブドア事件で失った投資家の信頼を取り戻すどころか、ますます投資家離れを招いており、IPOや売買代金低迷を不況のせいだけにはできない。2009年にロンドン証券取引所と新設したプロ投資家向け市場「TOKYO AIM(エイム)」も相変わらず上場が1社もない状態だ。
深センの新興市場は1年で100社以上が新規上場
東証は新興市場の信頼回復とIPO増加を狙い、新規上場を予定する企業に上場企業並みの監査を義務づける一方、新規上場審査は緩和し、上場審査期間も短縮するなどの改革案を発表した。1月中旬には、未公開ベンチャー企業にマザーズを知ってもらうための「ベンチャー・フォーラム」も初めて開き、「マザーズ出直し」(東証幹部)に取り組んでいる。斉藤社長は海外での営業活動にも繰り出し、韓国企業の上場の手応えも感じているようだ。
しかし、新興国市場の成長ぶりはすさまじく、中国・深センの新興市場「創業板」には1年で100社以上が新規上場している。ある日本のベンチャー企業経営者は「これからは市場が縮む国内より新興国。中国での展開に有利な台湾での上場を検討している」と語る。国内のベンチャー企業が韓国やシンガポール、香港などでの上場を志向する流れが今後、加速しそうだ。
韓国取引所に至っては、株式市場がなかったラオスやカンボジアへ取引所そのものを売り込むビジネスを始めている。海外から上場企業を連れてくるだけでなく、自ら乗り込んでいって取引所を開いてしまう発想は、日本の取引所にはみられない。
国際取引所連合によると、東証の2010年の年間株式売買代金は、2009年に続いて上海取引所に次ぐアジア2位となり、首位奪還はならなかった。新たな発想で活性化を進めなければ、東証の地盤沈下は止められそうにない。