朝日新聞が厚生労働省による「専業主婦の年金救済策」に激しく反発している。「年金未納でも受給OK」という一種の「徳政令」に対し、社説で「正直者が損をする」「このような不公平な措置は、やめるべきだ」と訴えている。インターネット上でも、「救済策」の評判は芳しくないようだ。
2011年2月2日付の朝日新聞朝刊は、「主婦の年金―この不公平は許されない」と題した社説を載せた。
離婚などの場合に変更届けせず保険料未納に
問題となっている救済策の構図は、おおまかに言うとこういうことだ。主にサラリーマン世帯の専業主婦(3号被保険者)は、自身で保険料を納めなくても払っているとみなされる。しかし、離婚したり夫が自営業に転職したりした場合には、「3号」ではなくなり保険料納付が必要となる。
ところが、「3号」からの変更届けを自分では出さなかったために「3号」扱いのままで、本来は必要だった保険料を払ってこなかった人が、数十万人から100万人もいることがこのほど明らかになった。
10年12月までは、年金を受け取る手続きの際などに「3号からの変更漏れ」が分かった場合、直近2年分の国民年金保険料の支払いを求められた上で、それ以前の保険料については未納扱いとされていた。年金を受給するには最低25年間、満額受けるには40年間の納付が必要で、結果的に無年金となったり減額受給となったりした人が出ていた。
多くのケースでは、「3号からの変更届け出」の必要性を知らなかったようだ。「旧社会保険庁の周知活動も不十分だった」(厚労省)というわけで、やむを得ない部分があるという認識だ。事態を放置すると無年金の人などが続出することから、同省は11年1月から対応を変えた。従来は未納扱いとしていたが、「3号」としての資格が継続していたとみなすことにしたのだ。「未納分は不問」というわけだ。直近2年については、国民年金保険料の支払いを求められるのは以前と一緒だ。
この措置に対し、朝日社説は、正しく「3号」からの切り替え手続きをして保険料を納めてきた人と比べ「不公平だ」と指摘している。すでに手続きを済ませ、「未納扱い」が確定した人も無年金や減額給付の状況が救済されるわけではない点も問題視している。
「速やかに対応を始める必要があった」
そして、総務省の外部識者からなる「年金業務監視委員会」に期待を寄せ、「厚労省とは別の立場から、くわしい経緯を調べ、点検して是正を促してもらいたい」と注文している。さらに、「今からでも遅くない。このような不公平な措置は、やめるべきだ」と断じた。
同委員会は、朝日新聞の期待に応えるのか。同委事務局にきいてみると「議題に上がるかどうかは委員の方々のご判断ですので、現時点では何とも申し上げようがない」とのことだった。
また朝日社説は、対案も提示した。さかのぼって納付する保険料を2年といわず「払えるだけ払ってもらい」、払えない期間は「加入期間としては認めるが、年金の受給額には反映させない」という方法を示し、「これなら、公平感が保たれ、無年金の人を増やさないで済む」と指摘した。
厚労省のある担当者によると、厚労相直属の形の「年金記録回復委員会」の中でも、今回の措置導入で不公平感が出るのではという懸念の声が挙がっていた。朝日社説の対案についてきいてみると、2年を超えてさかのぼって納付することなどを可能にするには法改正が必要で、「速やかに対応を始める必要があったため」今回の措置となったと説明した。
ちなみに、未納保険料をさかのぼって納付できる期間を現行の2年から10年にする国民年金法等改正案は、3年の時限立法の形となって現在は継続審議扱いだ。
朝日新聞以外でも、この問題を伝える記事の中で「きちんと保険料を払った人が不公平感を抱きかねず、議論を呼びそうだ」(読売新聞)、「『まじめに国民年金に切り替えて納めた人に不公平』との指摘も強い」(毎日新聞)などと報じられている。
ネット掲示板の2ちゃんねるや、この問題に関するネット配信ニュースのコメント欄などをみても、「ちゃんと年金を掛けている人をバカにするのか」など批判的な声が目立つようだ。