地上デジタル放送への完全移行まで残り6か月。総務省によると、地デジ化の準備は着々と進められ、地デジ放送対応受信機の世帯普及率は90%を超えている。しかし、その一方で浮上してきたのが「地デジ難民」の存在だ。
ビルの陰や山間部、離島といった、アンテナなどの送信設備が整っていなかったり、不十分だったりして地デジ放送が受信しにくい地域や場所はまだある。総務省の予測では2010年末時点で、アナログ放送が受信できている世帯にもかかわらず、地デジ放送が受信できない「難民」は約28万9000世帯ある。
中継局や共聴施設に補助金
総務省は2011年1月24日、「難視」対策を盛り込んだ「最終行動計画」を発表した。
地デジが受信しにくい「難視」の地域や場所について、総務省は「電波の中継局や共聴施設(共同アンテナ)がなかったり、ケーブルが延長できないなど、電波を受ける地点がみつからない、また弱い地域は少なからずあるが、そういった地域への対応が順次進めており、7月までにはほぼ100%対応できる」(情報流通行政局)と説明、自信をみせる。
たとえば、山間部などの辺地では、集落が共同でアンテナを設置するなど自主的に共聴施設の設置を進めており、10年12月末時点で全国81万世帯のうち69万世帯(85.1%)で対応が済んだ。残りの12万世帯についても、「7月までに対応を進める」という。
電波の中継局や共聴施設の新設に補助金を出すなどで、「難視」地域をつぶしていくが「万一対応が間にあわない場合には、暫定的に衛星放送で対応」して、テレビを見られるようにする。
アナログ放送受信で安心していた?
総務省が2010年末までに約1万9000地区に電波の実測調査を行ったところ、アナログ放送は受信可能だが地デジ放送は受信が困難な、「新な難視」世帯として約28万9000世帯を特定した。
東京タワーからの電波を直接受信できてアナログ放送が問題なく映る栃木県は、関東地方で地デジ放送対応受信機の世帯普及率が最も低いうえ、那須地区などの「新たな難視」世帯が増えた。
総務省は「アナログの電波を受信できる地域ではあるが、UHF(地デジ用の極超短波)になると南関東に比べると電波が弱い。そのため、新たな中継局や共聴施設などの設置が必要になってくる」と話している。
地デジの電波(UHF)が届く範囲の目安は「約50キロが限界」といわれるので、距離的にも、また山々に囲まれる地理的な要因は小さくない。栃木県の場合はさらに、アナログ放送の電波(VHF)が受信できていたため、インフラにあたる、電波を受けるアンテナなどの送信設備が不十分なまま地デジの準備が進められてきたようだ。
そういった辺地の「難視」地域には、東京都にも奥多摩町の一部や青ヶ島村などがある。全国の「難視」世帯のうち、具体的な「改善」計画があるのが12万400世帯。残りの3000世帯は対策を検討中で、この人たちは完全移行時の7月に「難民」となる可能性がある。 辺地や新たな難視の地デジ対策費として、政府は2010年度に78億6000万円、11年度に100億3000億円の合計178億9000億円の予算を手当てしている。