地上デジタル放送(地デジ)へ完全移行する時期が迫り、総務省は地デジ対応テレビへの買い替えやアンテナの工事といった準備を進めるよう呼びかけている。
だが実際は、アナログ放送終了後もブラウン管テレビのような地デジ非対応の受像機も使える。しかもデジタルチューナーの設置なしで地デジ放送を視聴できる方法があることは、あまり広報されていないようだ。
地デジ機器「駆け込み需要」で過去最高の出荷
総務省が、地デジに関する相談窓口として開設した「デジサポ」のサイトには、地デジのCM動画が流れている。2パターンある内容はいずれも「アンテナの改修の重要性」を説明するものだ。
2011年7月にアナログ放送が終了するため、テレビは地デジ対応のものに変えるか、非対応のテレビに地デジチューナーを内蔵した録画機をつなぐかといった措置が必要となる。アンテナも、使っていたものがそのまま地デジに対応しない場合があり、そうなると新たに設置しなければならない。
完全移行が近づいたことで、地デジ関連製品は「駆け込み需要」が生まれた。電子情報技術産業協会が11年1月25日に発表した、テレビやチューナー、デジタル録画機といった「地デジ受信機器」の10年12月の国内出荷実績は、前月に続いて過去最高を更新。1か月だけで559万台に上った。
地デジ移行後もアナログテレビを使用したい場合、ケーブルテレビ(CATV)に加入していれば可能だ。アンテナの設置も不要で、デジサポのサイトでもこの点には触れている。ただし視聴の際には、CATV業者が貸し出す専用チューナーに接続しなければならない。
これに対して、NTT東日本が提供する光ファイバーを利用した接続サービスなら、アンテナどころかデジタルチューナーも不要だ。アナログ放送終了後も、機器の追加やアンテナ工事なしでブラウン管テレビを使い続けられるという。
デジタル放送をアナログ方式に変換
NTT東日本のサービスの場合、デジタル放送をアナログ方式に変換して提供する「デジアナ変換」という技術を使っている。アナログ放送が終了しても、専用チューナーなしでアナログテレビが使えるのはそのためだ。録画する場合も、アナログのビデオ機が使用できる。同社によると、2015年3月31日まで地上放送が見られるという。恒久的ではないが、買って間もないブラウン管テレビがある人や、もっと値下がりしてから新しいテレビを買いたい人には好都合だろう。
しかしこのサービス、デジサポのサイトには記述がない。デジサポの担当者に問い合わせると、例えば地デジに関する質問を電話で受けた際に、相手の電波受信環境やインターネットの利用状況などを聞いたうえで、参考としてNTT東日本のサービスに触れることはあるという。ただし、「特定の業者のサービスを勧めることはできない」と言い、サイトに書かれていないのも同じ理由ではないかと説明した。
総務省は2010年11月26日、同年9月末時点での地デジ対応受信機の世帯普及率が90.3%に達したと発表。テレビの「駆け込み需要」は10月以降に起きたので、普及率はさらに上がったと見られる。一方で、不要となったアナログテレビを処分する際は有料でリサイクルに回さなければならないが、それを嫌って不法投棄するケースが増えたとの報道もある。
ジャーナリストの原淳二郎氏はブログでデジアナ変換の有用性に触れ、「まだ使えるテレビを捨ててエコポイントつきのテレビを買うことがどれほどエコなのか答えは明らかである」と指摘。また総務省や地デジ対策の宣伝番組が、デジアナ変換について一切説明しないことに「不況対策としてデジタルテレビに買い換えてもらいたいからだろうか」と疑問を投げかけている。