「まだ制限されていない。ネットから発信しよう」
あるポータルサイトのニュース担当役員の携帯には、絶え間なく電話が入ってくる。中央の宣伝部関係者しか知らないはずの携帯の番号は、いつの間にか地方の宣伝部まで知れわたっているのだ。インターネットに掲載されている記事を削除してもらいたい、という要望が圧倒的に多い。
「国の政治方針や外交、経済政策について、文句があれば、まぁそれはよしとしよう。そうではなく、市長とか県知事レベルの役人のミスの報道くらいでも、たちまち削除依頼の電話が来る。さんざん公害をまき散らしている企業について記事にしたら、地元の宣伝部から電話が来る。削除してもらいたい、というのだ。全く理解できない」
掲載された記事は、このポータルサイトの記者が取材したものではない。ほかの新聞、雑誌が公表したものの転載だ。ほとんどの紙メディアと配信契約を結んでいるので、地方のニュースでも時々サイトのトップページに出る。
こうした中で、紙メディアの編集者たちは、「統制」を出し抜こうと、いかに早く情報を流すかに工夫を凝らしている。
例えば、北京、南京、上海で起こった大火事。地元政府の素早いご指導のもとで、軍民が英雄的に火事と戦う「武勇伝」にあっという間に変化していく。その前に、火事の原因、市民の声などをできるだけ速く記事にする。
「まだ制限されていない。早いところインターネットから発信しよう」
「市民の声を紙面に飾ろう」
「言い逃れだが、その役人の声も併せて載せよう」
編集部内では、編集長、デスクのそんな声が鳴り響く。紙面に載せてしまえば、宣伝部がいろいろいっても、もう後の祭りというわけだ。
厳しい言論統制をうけながら、中国マスコミは頑張っている。ここ数年を見ても、野生トラのねつ造事件(陝西省)、大火事後に市民から献花(上海)、368万元の高速料金(河南省)といったヒットがあった。紙メディアでもやれる余地は十分ある、と中国の多くのマスコミ関係者は思っている。