火星への有人飛行も現実味を帯びつつある。そこで問題になるのが、宇宙空間での飛行士の体調の変化だ。その中で、性の問題については、米航空宇宙局(NASA)ではタブー視されてきたが、ここにきて専門家から「検討課題にすべきだ」との声もあがっている。
米国は2010年4月、今後30年以内に宇宙飛行士を火星軌道に送ることなどを骨子とした宇宙政策を打ち出した。計画の詳細は明らかではないが、「宇宙論雑誌(Journal of Cosmology)」の10年10・11月号では、火星の有人探査計画を大きく特集。全部で13章あるうちの1章を、火星での生殖行動に関する論文に割いている。本文だけで8200単語(4万4000字)以上に及ぶ大作だ。
オーストラリアの南極基地では7件の妊娠確認
論文を執筆したのは、カリフォルニア州の脳研究所(Brain Research Laboratory)のローン・ジョセフ博士だ。論文の冒頭で、
「人間は性的な存在で、男の宇宙飛行士と女の宇宙飛行士は、火星への飛行中に性的関係になるものと予測される」
とした。火星探査には、往路に9ヶ月、火星滞在に3ヶ月、復路に9ヶ月かかり、少なくとも2年程度を要するとされる。このため、論文では、宇宙飛行士の間に感情的なつながりが出来るとみる。
論文では、「屋外の気温がきわめて低く、長い期間を室内で過ごす」という点で、南極での生活を参考事例として挙げている。例えば、オーストラリアの南極基地では「誰も妊娠を望んでいなかった」にもかかわらず、1989年から2006年にかけて、7件の妊娠が確認されている。
「男性専用機」と「女性専用機」を送り出すよう提言
このことから、ジョセフ氏は、「火星で女性が妊娠しないかも知れないと疑う理由はない」と主張。さらに、火星でも出産は可能だとみる。ただ、火星では光の強さや重力が地球と大きく異なることから、火星で生まれた「火星人」は、次第に現地の環境に適応し、数世代後には新たな種に変化するとしている。
ただし、現時点ではNASAは、宇宙での放射線や無重力が胎児の発達障害につながる危険があることから、女性宇宙飛行士の妊娠が判明した場合は、乗務から外す措置をとっている。このことから、ジョセフ氏は、「火星への有人飛行中の妊娠は避けなければならない」として、火星探査の際には、「男性専用機」と「女性専用機」の2機を送り出すように提言している。
米フォックスニュースによると、NASAは、この論文について
「論文はNASAのものではないし、NASAは現段階では火星を植民地化するいかなる構想にもかかわっていない。また、NASAは宇宙や火星での性交渉や生殖について調査を行っていない」
として、コメントしなかったという。