「蚊に刺されたからきて」「歯が痛いから」といった、緊急性も必要性もないのに救急車を呼ぶケースが目立っている。お金を払うのがいやなのか、タクシー代わりに使う人もいる。「搬送途中に『コンビに寄れ』」という悪質な例もある。新聞報道などから「トンデモ利用」の数々を報告する。
「海水浴で日焼けしてヒリヒリする」
総務省消防庁の調査によれば、2008年の救急車の出動は約512万件。1998年に比べると約150万件増えた。怪我や病気などで運搬したのは08年が468万人で、98年よりも約110万人増えている。救急車の台数は全国に98年が約5200台、08年は約5900台で運搬人数の増加に比べればあまり増えていない。
08年中の救急車出動では、入院の必要がない軽症者が全体の50.7%いた。救急車の出動回数は年々増え都心ではパンク状態。このままでは本当に救急車が必要な人が運べなくなると、総務省消防庁は2011年3月中に、救急車を呼ぶかどうかの基準「救急車利用者マニュアル」を同庁ホームページに内に作る。
「海水浴で日焼けしてヒリヒリする」「蚊に刺されて痒い」「病院に電話をかけてもつながらない」など実際の通報事例があるという。
もちろんこんなものでは収まらない。調べてみると、実にトンデモないものが続々出てくる。刑事事件になった例もある。
病気やけががないのに、「しんどい。救急車を呼んでほしい」「手首を切った」と、119番通報を繰り返した和歌山市の男性。
病院が2時間待ちで、一度帰宅し救急車呼ぶ
「市消防局によると、容疑者からの通報は09年3~9月で計約180回にのぼり、うち約80回で救急車が出動。救急隊員が駆けつけると、自宅のドアを開けず、『帰れ、アホ』などと暴言を吐いたりした」(産経新聞09年10月6日)
また、和歌山市では、
「搬送途中にコンビニエンスストアに立ち寄るよう指示する悪質なケース」「台所に出てきたヘビの駆除をしてほしい」
といったものも消防局に来ていると同紙は書いている。
診察の待ち時間を短縮するための裏技を考えた人もいる。
「けがをしたという女性が運び込まれた。足の軽傷。実はこの女性は、少し前に同病院の救急外来を訪れたが、2時間待ちだったため、一度帰宅し救急車を呼んだのだった」(新潟日報10年3月31日)
高松市消防局は軽症なのに救急車を呼ぶ人が増えたため適正な利用をしてもらう運動を始めた。
入院のために「タクシー代わり」に救急車
「救急車が迎えに行くと、本人がきちんと着替えて歩いて出てきたり、『休日で病院が閉まっているから呼んだ』と言われるなど、明らかにタクシー代わりに呼んだと思われる」(四国新聞09年10月27)
という悪質なケースがあったためだ。
北九州市では10年の救急出動件数が5万件に迫る過去最高となった。風邪など入院の必要のない軽い症状で呼ぶ人がなど減らないためで、
「足が痛いので、家まで運んで、と通報した例もあった。消防局は『これでは本当に救急車を必要とする人の元に行けなくなってしまう』」
と嘆いていると、西日本新聞が11年1月14日に書いている。
毎日新聞の地方版では11年1月12日に、三重県津市市内では10年の出動件数の約半数が軽症者だったとし、
「『包丁で指を切った』『歯が痛い』などの通報のほか、救急車が駆けつけると、入院の準備をして自宅前で待機している」
などの利用例を挙げている。
総務省消防庁によれば、悪質な救急車の使用例について、
「不心得者が増えたというよりも、救急車をどう使っていいか分からない人がいるから起こってしまうことなのではないか。また、核家族化が進み、軽症であっても1人の寂しさから重大な怪我や病気と思い込んでしまうこともあるかもしれない」
と分析している。総務省消防庁では「救急車利用者マニュアル」の作成を急ぎ、救急車の利用者に活用してもらいたい、としている。