日本郵政グループの郵便事業会社(日本郵便)が2012年度の新卒採用を中止した。一方で、郵政グループといえば、当時の亀井静香・郵政改革相の肝いりで「非正規社員の正社員化」が進んでいる。結局、新卒世代にしわ寄せがいっているだけなのだろうか。
2011年1月11日、日本郵便は12年度新卒者の採用を全職種(総合職・一般職)で中止すると発表した。新卒採用中止は8年ぶりで、07年の民営化後では初めてだ。
「ゆうパック」遅配による顧客離れが響く
11年春は約1250人(例年は1300~1600人程度)が入社するものの、これが12年春にはゼロになってしまうわけだ。厳しさが指摘されている新卒就職戦線への影響が懸念される。
採用中止の理由は、10年夏の宅配便「ゆうパック」遅配問題を受けた顧客離れなどにより、11年3月期に純損失が500億円を超える見込みとなるなど業績が悪化しているためという。
ほかの日本郵政や郵便局会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険は、12年度も新卒採用を続ける方針だ。しかし、他社はすべて安泰、というわけではなさそうだ。
グループを統括する日本郵政の社長、斎藤次郎・元大蔵事務次官は11年1月7日、記者会見を開き、給与カットや人員配置見直しの検討方針を表明した。給与カットの対象となる会社については、報道各社によってばらつきがあるが、日本経済新聞は、「グループ他社も含め、経費の大半を占める人件費の削減が不可欠として(略)」と報じている。
ちなみに斎藤社長の会見は8か月ぶり、と久々のもので、会見を報じた朝日新聞は「姿を隠す戦略から窮状を訴える戦略に転換したとみられる」と皮肉った。
10年度は前年の4倍8400人を正社員化
日本郵政グループと人件費というキーワードで思い出されるのは、10年3月に当時の亀井郵政改革相がぶち上げた「非正規社員の正規登用」方針だ。規模について「10万人が上限」との見方を示したこともあった。当時、「人にやさしい政治」と評価する向きもあったが、「『民営化』企業の経営をしばるだけの愚行」との反発もあった。
同グループは亀井発言前から、勤続年数などの条件を満たした月給制契約社員について審査の上、正社員化を実施していた(09年は約2200人が合格)が、10年は対象を時給制契約社員にも広げ、計約8400人(うち、日本郵便は約6500人)と前年の4倍近い人数が合格した。応募者は計約3万4000人だった。
日本郵政によると、11年度も日本郵便を含め10年度と同様の対象で正社員登用を募る予定だ。合格者の人数規模は未定で、「人数枠を最初から決めるものではなく、応募があった中から審査の結果どうなるかだ」と説明している。日本郵便が新卒採用をやめる12年度については、実施するかどうか未定という。
朝日新聞(11年1月12日付)も記事で指摘するように、日本郵便は12年度に新卒を採用しない分、非正規社員を増やして対応することになる。ということは、非正規社員の相当数を正社員化したが、人件費コスト削減に迫られ、新卒採用を中止しその分また非正規社員を増やすという迷走が始まっていることになる。
日本経済新聞記事(1月12日付)は、新卒採用中止について、「社員の年次構成が偏り、業務知識の継承にも支障が出る」と指摘、「既存社員のリストラにも踏み込まなければ、若年層にしわ寄せがいくだけになりかねない」と懸念を示している。