NHK会長就任「拒絶」の真意  問題は「交際費」ではなかった?

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   NHKの経営委員会(小丸成洋委員長、12人)に対し、痛烈な批判が浴びせられた。NHK新会長への就任を一度は打診され受諾した安西祐一郎・前慶応義塾塾長(64)が「不信は頂点」と、NHK内で開いた会見で同委員会へ怒りをぶつけたのだ。いったい何が起きたのか。識者からは「密室人事で決めようとする体質がそもそも問題だ」との指摘も出ている。

   2011年1月11日の朝刊には、新会長人事をめぐるドタバタ劇が報じられていた。「安西氏に受諾撤回要請 本人は拒否」(読売新聞)、「NHK『安西会長』撤回」(産経新聞)などだ。

「仕事の環境について説明」を求めたことを曲解

「NHK新会長」受諾、一転拒絶の安西祐一郎氏。その胸中は?
「NHK新会長」受諾、一転拒絶の安西祐一郎氏。その胸中は?

   10年12月末に小丸委員長らが安西氏へ会長就任を要請し、安西氏が受諾、報道もされていた。しかしその直後に、安西氏が受諾に際し、会長職の交際費などに関して質問や条件提示をしたなどと報じられ、一部委員らの間で不信感が高まったとされていた。そうした流れを受け、産経報道(11年1月11日)によれば、経営委側が「就任要請の撤回」の意向を安西氏に直接伝えたというのだ。

   一方、同じ11日の朝日新聞朝刊は、「安西氏に一部委員異論」と抑え気味の見出し・記事で、安西氏の反論インタビューも掲載した。安西氏は、10年末に受諾するまでの経緯を語る一方、受諾に際しての「条件提示」報道について「事実無根の色々な中傷が広がり、憤っている」と反論していた。

   一体どうなっているのかと混乱が広がる中、安西氏は11日午後、NHKで記者会見した。結論としては、会長就任を一旦は受諾したものの、結局は「不本意ながらこれを拒絶する」と小丸委員長に伝えたという。経営委側から就任(受諾)辞退勧告があり、その時点では保留したという経緯も明かし、「就任要請撤回」報道をわざわざ否定する一幕もあった。

   「条件提示」報道については、「事実は一切ない」と否定。「仕事の環境について説明」を求めたことが「曲解」された可能性も指摘しつつ、「曲解すること自体が問われるべき」と話し、曲解する方が悪い、と言いたげだ。

   さらに、「いわれなき中傷を含む風評だけで私を評価するようになった」「伝えた情報がまったく曲解された形で流布」「委員会に対する不信は頂点」「風評に依存して動く委員会」と、激しい表現を連発した。相当頭にきている様子がうかがえる。

   そもそも新会長選びはもめていた。約20年ぶりの外部起用だった現・福地茂雄会長(アサヒビール出身)が1期(3年)限りでの退任の意向を示し、経営委は経済界からの後任を模索したが難航し、福地会長の続投を求めたが結局断られる形となっていた。

   その福地会長も、1月6日の最後の定例会見で、後継会長選びについて、「トップの1番大事な仕事は次の後継者を育てて指名することなのに、それについてはすべて経営委員会だけにあって会長に(権限・資格は)ないというのはおかしい」と不満をもらしていた。

公募制などの必要性が改めて浮き彫りになった

   ドタバタ劇の報道・記者会見があった1月11日は、経営委が開かれる予定日でもあった。醍醐聡・東大名誉教授ら識者が世話人をつとめる「開かれたNHKをめざす全国連絡会」は、安西氏の会見や同委員会が開かれる前の11日午前、NHK会長選びについて、NHK事務方を通じて経営委員会あての申し入れをしていた。

   申し入れ書では、安西氏の名前は挙げていないものの、「交際費」をめぐる報道を指摘しつつ懸念を示し、「言論・報道機関の責任者として高い識見や放送の自主・自立を貫く姿勢を人選判断の柱にすべきだ」などとした。さらに、会長選出の審議過程公開や最終決定前の複数候補による所信表明、その公開も求めている。また、公募制の導入も提言している。

   同会の世話人のひとりで、メディア研究者の松田浩さんに話をきいた。松田さんは、新聞記者出身の元・立命館大学教授で、「NHK 問われる公共放送」(岩波新書)などの著書もある。

   松田さんによると、選考過程の透明化や公募制の必要性について、同会は10年秋など以前からNHKに申し入れをしているという。今回の新会長選びを巡るドタバタについては、奇しくも公募制などの必要性が改めて浮き彫りになった形だと指摘した。さらに、

「受信料を払う国民の理解を得るためには、密室選考を早急に改める必要があります」

と強調した。

   福地会長の任期満了は1月24日と間近に迫っている。ちなみに、NHK会長の標準年間報酬額は約3190万円だ。

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