2011年は自動車ディーラーの販売現場で、米アップル製のタブレット型多機能情報端末「iPad(アイパッド)」を用いた商品説明手法が急速に広まりそうだ。高齢化により新車・中古車市場の縮小が避けられない状況の中で、ディーラーにとってショールームへの来店が得られることは販売の大きなチャンス。
ところが車を見てカタログをもらったら帰ってしまう来店客も存在する。そこで来店客と接触したセールスがiPadを用いて素早く車に関する情報を提供し、来店客の購入意欲を高めて商談テーブルへと誘導する手法が考えられはじめた。
トヨタも11年1月から関東地区で実証実験
来店客が購入を決める割合であるキャッチ率を高めて販売量を増やし、さらに販売効率を改善することが狙いだ。
販売現場におけるiPadの導入は、ソフトバンクモバイルが提供する公衆無線LANサービス「ソフトバンクWi-Fi(ワイファイ)スポット」とセットで行われている。軽量で持ち運びしやすいiPadは、来店客と展示車に触れながら画面上でわかりやすく車の特徴を説明できるツールとなるだけでなく、ユーザー宅への訪問に持って出掛けるパソコンに代わるアイテムとしての利用も期待されている。
自動車販売業界におけるiPadの導入では、すでに2010年10月にはMINIディーラー全拠点への配備が完了。さらにBMW、アウディ、プジョー、シトロエン、サーブなどのディーラーへの導入も進んでいる。
これらの輸入車勢だけでなくauサービスを展開するKDDIの株主であるトヨタ自動車までもiPadの魅力に取り付かれ、11年1月から関東地区の一部のディーラーでiPadを使った販売手法の実証実験を開始することにした。また中古車大手のガリバーインターナショナルも出張展示での在庫情報提示などに用いはじめている。
ディーラーへの導入以前の段階では、10年にメルセデス・ベンツ日本(MBJ)が「メルセデス・ベンツSLS AMG」、プジョー・シトロエン・ジャポン(PCJ)が「プジョーRCZ」の出張展示でiPadを活用した。ディーラーのショールーム以外の場所で、MBJは車の傍らに立つ説明員が新型車の商品情報を消費者に提供するための販売促進ツールとして、PCJは来場者に対するアンケートの記入用に用いた。
商品説明だけでなく新車開発者のインタビューなども
その後、新たなiPad活用方法としてビー・エム・ダブリュー(BMWグループジャパン)がMINIディーラーとBMWディーラーに商品説明用のツールとして展開。アウディジャパンも11年2月の「A8」発売までに、アウディディーラーのセールスがA8の商品説明だけでなくA8開発者のインタビューなども含めた情報を来店客に提供できるようにしはじめた。
さらに一歩進んだ活用方法を模索しているのがPCJ。11年3月にはプジョーとシトロエンのディーラーに、新車の見積もり機能のソフトや顧客情報の一部を入れられるようにしたiPadを配備する計画を持つ。またトヨタは国内宣伝・マーケティング活動子会社のトヨタマーケティングジャパンがトヨタ車のショールームであるアムラックス東京(東京都豊島区)内で、11年2月末までの予定で「ヴィッツ」の商品説明実験をスタートし、関東地区のディーラーにも導入して販売促進活動への活用を模索する。
iPadの販売現場への導入による新たな販売手法の構築で、ショールーム内ではセールスがスマートなスタイルで来店客と会話する光景が見られるようになっている。だがその背景には、セールスが持つ商品知識より購入検討者の知識の方が豊富なケースが多々あることや、来店客とスムーズに会話できる能力がセールスに不足していることもある。
iPadの導入がセールスの能力を補完することに対する期待は大きい。一方で販売現場のコスト削減に力を入れる他のメーカーやインポーターなどからは「たんなる新物好きに過ぎず、基本的な問題の解決には至らない」という声も聞かれる。iPad導入によりどれだけ実際に販売キャッチ率を高めることができるのかが鍵になる。