ビール各社が海外企業のM&A(企業の買収・合併)を加速させているが、案件の見直しなどを迫られる局面も目立ち始めた。
国内市場がピークを過ぎて縮小に向かうことから、各社とも従来から海外展開を意欲的に進めてはいるが、アサヒビールが傘下の韓国清涼飲料大手の売却を2010年10月末に発表したのに続き、キリンホールディングス(HD)が買収先豪州企業の低迷から2010年12月期の最終利益が連結決算に変更した80年以降、最低水準に陥る見通し。M&Aにまい進する初期段階から買収先の選別、買収後の運営が問われるステージに入っている。
アサヒビールが韓国清涼飲料大手を売却
キリンHDは2010年12月20日、12月期の最終利益予想を下方修正し、前期比80%減の100億円になる見通しだと発表した。約3000億円かけて2007年に完全子会社化した豪州乳業最大手「ナショナルフーズ」の業績が振るわず、「のれん代」などで計約400億円もの減損処理をしたため。豪州の清涼飲料市場は、縮小に向かう日本と違い、年4~5%程度の堅調な成長を見込めるだけに、キリンは思わぬ誤算に頭を抱えることとなった。競争激化で販売価格が下落する一方、干ばつなどの影響で原料の牛乳価格が高止まりしていることなどにより、ナショナルフーズの業績は黒字ながら伸び悩んでいるという。
アサヒが売却を決めた子会社の「ヘテ飲料」は、主力の果汁飲料などで苦戦が続いた。アサヒが2004年に連結子会社化したが、2003年12月期に約350億円あった売上高は2010年12月期に200億円まで減り、営業損益も24億円の赤字が見込まれ、はっきり言って足を引っ張っていた。
ヘテ飲料はLGグループに売却し、アサヒの韓国事業はロッテと連携することで巻き返しを図る。アサヒは2010年12月期に海外事業が黒字転換する見通しだが、赤字を垂れ流したヘテ売却で2011年12月期以降に利益が出る体質を確実にしたい考えだ。
キリンやサントリーも飲料を中心に海外事業拡大
円高傾向も後押しし、ビール各社の海外M&Aは進んでいる。2010年8月、アサヒは豪州飲料3位の「P&Nビバレッジズ」の買収(約270億円)を決定。2009年には同2位の「シュウェップス・オーストラリア」を770億円で買収しており、2、3位連合で首位のコカ・コーラグループを追撃する構え。またアサヒは2010年9月末、中国食品・流通最大手の頂新グループに6.5%(約440億円)出資することも発表した。
キリンは2010年7月、シンガポールとマレーシアで飲料最大手のフレイザー&ニーヴ(シンガポール)に14.7%(約850億円)出資することを決定。
2009年秋に約3000億円かけて仏飲料大手「オレンジーナ・シュウェップス」を買収したサントリーホールディングス(HD)も2010年末、米果汁飲料大手「サニー・ディライト・ビバレッジ」の欧州事業を数十億円での買収を決めるなど、飲料を中心に海外事業拡大に余念がない。
ただ、手当たり次第に買う状況ではない。2010年11月に仏ダノンが「エビアン」「ボルヴィック」などのミネラルウォーター事業売却を日本のビール大手と交渉中、と米紙が報じたが、各社とも「規模が大きい一方、利益が出るかどうか」(大手の1社)と買収には慎重だ。買収先の選別眼をどう育成し、買収企業をどう育てるか。国内の消耗戦に明け暮れてきたビール各社にとって経験の蓄積が薄いビジネス感覚を磨く必要に迫られている。